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2010/1/27

総合 - ドイツ経済ニュース

公的健保の新制度、スタート1年で試練に直面

この記事の要約

医療費の膨張を抑制する切り札として2009年1月にスタートした健康基金(Gesundheitsfonds)制度が早くも大きな試練に直面している。赤字を理由に保険料の追加徴収に踏み切る公的健康保険組合が出てきたうえ、今後は […]

医療費の膨張を抑制する切り札として2009年1月にスタートした健康基金(Gesundheitsfonds)制度が早くも大きな試練に直面している。赤字を理由に保険料の追加徴収に踏み切る公的健康保険組合が出てきたうえ、今後はドミノ倒しのように他の公的健保が追随し、コスト抑制のブレーキが利かなくなる恐れがあるのだ。追加徴収が広範囲で実施されれば、被保険者の家計が圧迫され、個人消費の減速が強まることも懸念される。

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公的健保の保険料は従来、各健保組合が料率を決め、被保険者から直接、徴収していた。これに対し昨年から始まった健康基金制度では料率を政府が一律で定め、健康基金が一括徴収する。料率は運用開始時の09年上半期は収入の15.5%だったが、経済危機を受け下半期から14.9%に引き下げられた。

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各健保は被保険者の数に応じて健康基金から保険料を分配される。被保険者1人当たりの額は基本的に同一で、支出が収入を上回る健保は被保険者から追加保険料を徴収できる。その額は所得の1%が上限(ただし最高額は月37.5ユーロ)で、月8ユーロ以下であれば被保険者の所得の大小にかかわらず一律の金額を徴収できる。

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ただ一方で、財務にゆとりのある健保には保険料の一部を被保険者に返還することが認められているため、追加徴収する組合からは被保険者が流出する可能性が高く、各健保は無駄な支出の削減に取り組まざるを得ない。高齢者や病人が多くコストが膨らみやすい健保に対しては、基金からの分配額を上乗せし、不平等にならないよう配慮されている。

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政府は同制度の実施によりサービスの質と保険料率をめぐる健保間の競争が生まれ、コスト削減が進むと期待していた。

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大半の健保は追加徴収か

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だが、こうした所期の狙いはこれまでのところ現れていない。09年に徴収した保険料の還付を表明したのはブレーメンの商業健康保険組合(HKK)などごく一部の健保に限られるのだ。25日には計8健保の代表がベルリンで共同記者会見を開き、追加保険料を早ければ2月から徴収する方針を明らかにした。

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保険料の追加徴収に踏み切るのにはそれのなりの根拠がある。国から約160億ユーロもの補助金を受けるにもかかわらず、公的健保は今年、全体で約40億ユーロの赤字を計上する見通しなのだ。保険料納付者1人当たりに換算すると月6.5ユーロ不足することになる。来年は不足額が全体で110億ユーロに膨らむとの指摘もある。

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25日の記者会見を開いた健保はこうした見通しを踏まえ、年内にはほぼすべての健保が追加徴収に踏み切るとの見方を示した。この見解通りに追徴の雪崩が起きれば、健保間に競争原理が働き保険料負担の軽減と医療費上昇の抑制をもたらすとの期待は実現しそうもない。

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だが、健保支出の膨張が本当に避けられないのかについては疑問が残る。保険料還付を決定したHKKはサービス給付水準の高さで定評があるにもかかわらず、財務が極めて安定しているからだ。

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健康基金制度の導入の際には、財務状況の悪い健保がHKKなどの優良健保をベンチマークとして業務のあり方を抜本的に見直すことが期待されていた。各健保にそうした努力が生まれてこないのであれば、努力を促すメカニズムを新たに構築することが政府に求められる。

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追加保険料、月8ユーロでも低所得者には負担

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追加保険料を徴収する健保のほとんどは金額を月8ユーロ以下に抑えると予想される。これを超える場合は料率を設定したうえで徴収することになるため、保険料納付者一人ひとりの収入を査定する必要が生じ、煩雑な事務手続きと莫大な費用が避けられなくなるためだ。

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追加保険料を納付するのは被保険者のみで、被保険者を雇用する企業は請求されないため、8ユーロの徴収であれば被保険者の負担は年96ユーロ増える。これは所得水準が比較的高い人であれば重荷にならないだろうが、例えば月収が手取り800ユーロの人にとっては可処分所得が1%減ることを意味する。このため、追加徴収の動きが広がれば、消費マインドの冷え込みが避けられなくなる。

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