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2010/2/10

総合 - ドイツ経済ニュース

求職者基礎保障の給付金算定方式は違憲、憲法裁が法改正命令

この記事の要約

労働市場改革の一環で2005年1月に導入された求職者基礎保障給付の受給者が起こしていた違憲訴訟で独連邦憲法裁判所(BVerfG)は9日、支給額の算定方式は人間にふさわしい最低限度の生活を保障した基本法(憲法)1条と社会的 […]

労働市場改革の一環で2005年1月に導入された求職者基礎保障給付の受給者が起こしていた違憲訴訟で独連邦憲法裁判所(BVerfG)は9日、支給額の算定方式は人間にふさわしい最低限度の生活を保障した基本法(憲法)1条と社会的な公正を保証した「社会国家原則」に抵触しているとの判断を示し、立法機関に対し2011年1月1日までに制度を改正するよう命じた。憲法裁の命令に従って新ルールが実施されると、社会保障費が膨らみ財政再建のハードルが高まるほか、給付金受給者と低賃金労働者の就労意欲が弱まり、非熟練労働者を労働市場に統合するという構造改革の目標がとん挫する恐れがある。

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求職者基礎保障制度は、長期失業者と生活保護受給者の削減を狙って導入されたもので、通称「ハルツ第4改革(Hartz Ⅳ)」と呼ばれる。その骨子は長期失業者と就労能力のある生活保護受給者を対象に新たに「第2種失業手当」を設置したうえで、給付水準を従来の生活保護よりも低く設定し就労を促すというもの。

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給付金は食費や衣料費、交通費、娯楽費などからなる一般給付金(Regelsatz)と家賃・暖房費給付金の2種類で構成されており、合計の給付額は世帯の構成人数、子供の年齢などにより異なってくる。カール・ブロイヤー研究所が『フランクフルター・アルゲマイネ』紙の委託で行った調査によると、独身の場合は現在、一般給付金が月359ユーロで、家賃・暖房費を合わせた総支給額は平均637ユーロとなっている。子供が2人いる4人家族では総支給額が平均1,653ユーロに上る。

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これらの額は連邦統計局が5年に1度実施する市民アンケート調査をもとに算定・改定される。また、子供の一般給付金は成人よりも額が低く、6歳以下は215ユーロ(成人の60%)、7~14歳は251ユーロ(同70%)、15歳以上は287ユーロ(80%)となっている。

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給付金額は現実に即して算定を

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今回の裁判は子持ちの受給世帯が起こしていたもの。原告は子供への支給額が実際に必要とする水準に達しておらず、最低限度の生活を保障した憲法の規定に違反すると指摘したうえで、金額の算定方法は恣意的だと批判していた。具体的には◇体の成長が早く大人よりも衣料品を買い替える頻度の高いことが考慮されていない◇授業でノートや計算機などを必要とするにもかかわらず、教育関係の出費が一般給付金にまったく組み込まれていない――などを問題とした。

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憲法裁の裁判官はこの主張を全面的に認め、支給額の決定に当たっては日常生活で最低限度必要とする費用を現実に即して計算しなければならないと指摘。統計的な手法を用いること自体には問題はないが、抽象的なデータを一方的に当てはめて算定するのは違憲だとの判断を示した。

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裁判官はこの認識に基づき、係争の対象となっていなかった大人の一般給付金についても算定方法が憲法に違反すると言い渡した。

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給付金の額が高いか低いかについては「憲法の規定から金額を直接導き出すことはできない」との立場を明示した。そのうえで、政府・議会に対し、分かりやすく市民の納得がいくような支給額の算定ルールを制定するよう促した。

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勤労意識崩壊の恐れも

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政府は今回の判決を受け、法改正に取り組む意向を表明した。懸念される社会保障費の膨張については、「判決は透明性の高い算定方式を求めているにすぎず、給付金の引き上げには必ずしもつながらない」(ショイブレ財務相の広報担当者)としている。

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一方、専門家や報道関係者の間では、支給額が増加するとの見方が強い。労働市場・職業研究所(IAB)は、一般給付金の額を社会福祉団体が求める1人420ユーロに引き上げれば、国の負担は現在の年450億ユーロから550億ユーロに膨らむと試算している。

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しかし、支給額が増えた場合、最も懸念されるのは勤労意欲の低下だ。

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カール・ブロイヤー研究所によると、フルタイムで働く非熟練労働者の手取り月給は現在、子供2人の4人世帯で平均1,437ユーロ。これに2人分の子供手当368ユーロを加えても1,805ユーロにとどまり、求職者基礎保障給付を受ける4人世帯の月収(1,653ユーロ)との差はわずか152に過ぎない。ホテル、飲食業、派遣業などでは月給が給付金額を下回っており、まじめに働くよりも給付金受給者になった方が経済的なメリットが大きいというねじれ現象がすでに起きているのだ。

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給付金の額を引き上げればこのゆがみは一段と強まり、社会の支柱である勤労の価値は足元から崩れていく恐れがある。

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