マックス・プランク・コロイド界面研究所(MPIKG、ポツダム)を中心とする独米研究チームが、ある種の二枚貝が海底の基質に自らを固定するために用いる足糸(byssus)の分子レベルの構造を解明することに成功した。アミノ酸と鉄分子が結びついてできたこぶ状の層が柔軟性に富むタンパク質繊維の表面を覆って保護するという構造で、剛性と弾性を両立する新たな接着剤あるいは貝の付着を防止する防汚塗料の開発につながると期待されている。
\イガイなどの二枚貝の一部は、足糸という糸を出して岩などに張り付く。その接着力は潮流や水の流れ、あるいは水に流されてきた砂や石などの硬いものによる衝撃を受けてもはがれないほど強力な一方、2倍に伸ばしても折れたりちぎれたりしないなど柔軟性も高い。MPIKGのマシュー・ハリントン研究員は「柔軟さと強度(硬さ)は通常、相いれない性質だ。なぜ足糸にその両方が可能なのかが研究の出発点になった」と話す。
\研究チームは電子顕微鏡で足糸の表面構造を捉えるとともに、ラマン分光法と呼ばれる手法によってその分子構造を調べた。その結果、(1)足糸は硬い微細粒が柔軟なタンパク質繊維(コア部分)の表面を覆う構造(2)微細粒は3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン(DOPA)と呼ばれるアミノ酸と鉄イオンが結びついた架橋ネットワーク構造――であることが明らかになった。その強度はエポキシ樹脂に匹敵するほどだったという。
\今回の研究の成果は『Science』(2010年3月)に掲載された。
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