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2010/7/14

総合 - ドイツ経済ニュース

ナブッコ陣営をロシアが切り崩しに、RWEはサウス・ストリーム参加を検討

この記事の要約

ロシアを経由せず欧州に天然ガスを供給する「ナブッコ」ガスパイプライン計画を同国が全力で阻止しようとしている。同パイプラインのガス供給国となる予定のアゼルバイジャンとトルクメニスタンに圧力をかけているほか、ナブッココンソー […]

ロシアを経由せず欧州に天然ガスを供給する「ナブッコ」ガスパイプライン計画を同国が全力で阻止しようとしている。同パイプラインのガス供給国となる予定のアゼルバイジャンとトルクメニスタンに圧力をかけているほか、ナブッココンソーシアムに参加する最大の企業である独RWEに対し、同計画に対抗してロシアが打ち出した「サウス・ストリーム」ガスパイプライン計画への参加を促しているのだ。背景には欧州へのガス供給で冷戦時代から保ってきた独占的な地位が揺らいでいることがある。

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欧州で建設・計画中の主要なガスパイプラインは現在、3本ある。1つはロシアのウィボルグとドイツのグライフスヴァルトを結ぶ「ノルド・ストリーム」で、2005年に建設が決まった。ロシアの国営ガス大手ガスプロムのほか、ドイツのガス元売り大手エーオン・ルールガスとヴィンタースハル(化学大手BASFの子会社)が出資している。すでに着工しており、2011年から供給を開始する予定だ。輸送量は当初が年275億立方メートルで、将来的には倍増される。

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残る2つはナブッコとサウス・ストリームである。

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ナブッコ計画が持ち上がった背景には、ロシアが天然ガスを外交の圧力手段に利用するようになったことがある。2006年1月にガスプロムがウクライナ向けのガス供給を停止し、そのしわ寄せがドイツをはじめとする西欧諸国に及んだことは欧州連合(EU)内でエネルギー安全保障政策の見直し論議を喚起。ロシア依存の軽減はEUの大きな政策課題となった。

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これを反映しEUが推進するナブッコのパイプラインルートはすべてロシアを回避し、ガスの供給元もアゼルバイジャン、トルクメニスタンとイラクを予定している。

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一方、サウス・ストリームはナブッコ同様、南東ユーロッパ経由で天然ガスを欧州に供給するもので、ナブッコ計画を破たんさせようというロシアの意図がにじみ出ている。

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世界的な供給過剰でロシアの影響力低下

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ナブッコのガス供給元予定国に対するロシアの圧力は効果を挙げているようだ。トルクメニスタンはアゼルバイジャンが参加することを供給の条件とし、アゼルバイジャンも単独では供給に応じないとの立場を提示。ナブッコのガス供給国は過去数年の交渉にもかかわらず確定していない。

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ナブッコに参加する企業をサウス・ストリーム側に取り込むこともロシアの取り組みである。オーストリアのエネルギー大手OMVはナブッコにとどまりまがらもサウス・ストリームを支持する方針を正式に表明している。

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ロシアが独RWEにも働きかけていることは12日付の『独ハンデルスブラット』が報じ、明らかになった。同社は「ナブッコは欧州のガス供給源の多様化を実現するための唯一のイニシアチブだ」としながらも、ガスプロムのオファーを検討することを明らかにしている。ただ、仮にサウス・ストリームに参加するとなれば莫大な投資が必要となるため、ナブッコとの両立は難しく、ナブッコはとん挫する恐れがある。

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ロシアがナブッコ潰しに躍起になるのはその存在が単に疎ましいからだけではない。経済危機と「シェールガス」採掘の実現を受け天然ガスが供給過剰となり、スポット価格が下落したたことも重要な背景として指摘しなければならない。これにより、ロシアが欧州向けガス価格の決定権を喪失したためである。

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シェールガスは天然ガス採掘後のガス田の堅い岩層内に残された天然ガス。これまでは採算の取れる採掘法がなかったが、米国企業が近年、この壁を破ったため、天然ガスが市場に溢れるようになった。

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この影響で石油価格に連動するロシア産ガスの契約価格はスポット価格を大きく上回り、その需要が減少。ガスプロムは今年に入ってガス価格の石油連動制を部分的に廃止することを余儀なくされた。ロシアの天然ガス生産量は昨年、前年比12%減の5,275億立方メートルと大きく落ち込んでいる。

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ロシアは欧州天然ガス市場で独占的な地位を取り戻し、価格統制権も取り戻したい考え。ナブッコ計画はその意味でも阻止しなければならないようだ。

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