ミュンヘン大学(LMU)、米マサチューセッツ工科大(MIT)などの国際産学研究グループは、薬に含まれる化学物質が作用する対象(創薬ターゲット)であるGタンパク質共役受容体(GPCR)を、簡単に生産する手法を開発した。自己組織化の性質を持つペプチドでGPCRを包みこんで粒子状にするのがポイントで、細胞培養を用いる従来の手法に比べ作業の手間やコストが大幅に軽減され、量産もしやすい。研究チームは、新薬開発の低コスト化や効率化につながると期待を寄せる。
\GPCRは細胞外の神経伝達物質やホルモンを受容してそのシグナルを細胞内に伝える。多くの疾患に関与していることが分かっており、創薬ターゲットとして大きな注目を集めている。
\ただ、GPCRは膜貫通タンパク質で、細胞膜を貫通した状態でなければ発現しない。GPCR膜の調製では通常、細胞培養が用いられるが、コストが高い上に作業が煩雑で大量生産ができないという問題があった。チームはこのため、細胞(膜)を使わずにGPCR膜を調製する方法に取り組んだ。
\チームが注目したのは界面活性剤様ペプチドだ。界面活性剤様ペプチドは細胞膜同様に親水部層と疏水層を持つ。また、ひとりでに秩序正しい構造やパターンを作る「自己組織化」の性質があり、水溶液中で粒子径50~100nmのナノ粒子を形成する。今回の実験ではヒトホルミルペプチド受容体、ヒト微量アミン関連受容体と2種類の嗅覚受容体のGPCRを界面活性剤様ペプチド上に発現させたところ、その全てについてGPCR特有のαへリックス構造が観察された。また、LMUのスピンオフ企業Nano Temperが開発した熱泳動分子測定システムを用いてペプチド上の受容体がリガンドと結合したかを調べたところ、嗅覚受容体の1つが特定の匂い分子と結びついたことが確認された。
\研究の成果は米国科学アカデミー紀要(PNAS)に掲載された。
\