欧州経済の中心地ドイツに特化した
最新の経済・産業ニュース・企業情報をお届け!

2011/7/20

ゲシェフトフューラーの豆知識

職場風刺は表現の自由、解雇無効に

この記事の要約

職場や上司、同僚に暴言を吐けば警告・解雇などの処分を受ける。これについては7月6日号のコラム「責任能力なくても即時解雇可」でお伝えした。しかし、小説を書いて上司や同僚を想起させるような人物を侮蔑的に描写した場合は事情が異 […]

職場や上司、同僚に暴言を吐けば警告・解雇などの処分を受ける。これについては7月6日号のコラム「責任能力なくても即時解雇可」でお伝えした。しかし、小説を書いて上司や同僚を想起させるような人物を侮蔑的に描写した場合は事情が異なるようである。ここではハム州労働裁判所が15日に下した判決(訴訟番号:13 Sa 436/11)に即してこの問題をお伝えする。

\

裁判を起こしたのはキッチン家具メーカーに勤務するユルゲン・ビュッカーという51歳の男性(判決文では実名が伏せられるが、小説を書いたため分かる)で、2010年10月に小説『地獄を恐れるものはオフィスを知らない』出版した。小説には名前こそ変えているものの、明らかに上司や同僚をモデルにした人物が登場。例えばトルコ人女性の同僚をモデルとしたファトマという名の登場人物についてはドイツ語の話し方や怒りっぽい性格などを皮肉っている。また、ホルストと命名された上司には「卑怯者」の烙印を押している。

\

原告は10月末にこの本を職場で同僚に売ろうとしたため、雇用主は11月10日付で即時解雇を通告した。小説で上司と同僚を侮蔑し、職場の環境・雰囲気(Betriebsfrieden)を著しく損なったと判断したためだ。小説の内容にショックを受けて医師の治療を受けた従業員もいたという。

\

原告はこれに対し、小説はあくまでもフィクションで、解雇は憲法(基本法)5条3項で保障された芸術の自由(表現の自由の1つ)への侵害に当たると主張。解雇の取り消しを求めて提訴した。

\

こうした人物は倫理的に判断するとどうしたものかと思う。だが、法律上の判断は必ずしも倫理とは合致しないもので、第1審のヘアフォード労働裁判所は原告の訴えを認め解雇を無効とし、第2審のハム州労裁も1審を支持した。判決理由で裁判官は、登場人物の特徴がすべての面で実在の人物に合致していなければ作品はフィクションに過ぎないと指摘。原告の小説はこの意味でフィクションに当たるとして、表現の自由が保障されなければならないとの判断を示した。

\

裁判官は憲法解釈上の意義を踏まえ、最高裁の連邦労働裁判所(BAG)への上告を認めた。

\