多剤耐性菌の新たな抗菌材として注目されている「アシルデプシペプチド」というタンパク質が細菌に作用するメカニズム(作用機序)の解明にボン大学を中心とする独英研究チームが成功した。細菌の細胞内にある酵素の調節機構に異常を引き起こし、タンパク質分解が促進されて細胞分裂ができなくなる結果、細胞が死滅するという。
\抗生物質の乱用の結果、多くの抗菌薬への耐性を獲得した菌(多剤耐性菌)が増えている。従来使用されていた薬剤がほとんど効かないため院内感染などで発病すると治療が難しく、高齢者や乳幼児など抵抗力の低い患者では重症化のリスクも高い。耐性菌に有効な新規抗菌薬の開発はここ数年、世界的に停滞している。
\アシルデプシペプチド(ADEPs)は放線菌のストレプトマイセス・ハワイエンシスから作られるペプチドの系統群で、グラム陽性菌に対して抗菌機能があることはすでに知られていたが、その作用機序はこれまで分かっていなかった。ボン大学、デュッセルドルフ大学、英ニューカッスル大学からなる研究チームは、複数のグラム陽性菌を蛍光色素で染色した後、ニューカッスル大の高性能蛍光顕微鏡を使ってリアルタイムで観察。この結果、(1)ADEPsがタンパク質分解に関与するATP依存性プロアテーゼの活性サブユニット(ClpP)に結合し構造を変化させる(2)ClpPが統制機能を失い、細胞分裂時に隔壁となるFtsZタンパク質が分解される(3)細胞分裂で重要な役割を果たすZリング(FtsZタンパク質が環状にまとまったもの)が形成できなくなり、正常な細胞分裂ができなくなる結果、細菌は死滅する――ことが確認された。
\ただ、プロジェクトで中心的役割を担うデュッセルドルフ大のブレッツエスターハイト教授は「まだ基礎研究の段階で、製品化にこぎつけるとしても8~10年先」と述べ、過大な期待にくぎを刺した。
\研究成果は米国科学アカデミー紀要(PNAS)に掲載された。
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