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2011/11/9

総合 - ドイツ経済ニュース

所得減税60億ユーロで与党合意

この記事の要約

独与党のキリスト教民主同盟(CDU)とキリスト教社会同盟(CSU)、自由民主党(FDP)の3党は6日、内政上の今後の施策方針について合意した。市民の税負担軽減が最大の目玉で、総額60億ユーロの所得税減税を実施する。ただ、 […]

独与党のキリスト教民主同盟(CDU)とキリスト教社会同盟(CSU)、自由民主党(FDP)の3党は6日、内政上の今後の施策方針について合意した。市民の税負担軽減が最大の目玉で、総額60億ユーロの所得税減税を実施する。ただ、ドイツではギリシャやイタリアなどの財政危機を背景に減税よりも財政赤字の削減を求める声が強くなっている。野党は阻止の構えを見せており、減税が実現するかは不透明だ。

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減税は所得税の基礎控除引き上げと税率の累進性緩和を通して実施する。基礎控除は現在、年8,004ユーロで、与党は2013年に110ユーロ、2014年にも240ユーロ引き上げる考え。これにより税負担を年40億ユーロ軽減する。

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税率の累進性を緩和するのは名目所得が増えても税率上昇とインフレの作用で実質所得が減少する「冷たい累進性(kalte Progression)」という現象に歯止めをかけるためだ。与党は2014年に累進性を緩め、20億ユーロ強の減税を目指す。

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ドイツ経済研究所(DIW)の調査をもとに日曜版『フランクフルター・アルゲマイネ(FAS)』紙が報じたところによると、ドイツの平均的サラリーマンの実質月収は2010年に1,941ユーロとなり2005年の2,087ユーロから7%も減少した。これは消費者の購買力を押し下げ、内需拡大のマイナス要因になっているとされる。

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ドイツの経済状況を踏まえると、60億ユーロの所得減税は手の届かない規模ではないようだ。政府の税収見積もり委員会が4日発表した秋季税収予測によると、ドイツ全体の税収は今年7.7%増加。来年以降も3%台の成長が続く。(表を参照)

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だが、エコノミストの間には税負担の軽減よりも財政赤字の削減を求める声が圧倒的に強い。累積債務の対国内総生産(GDP)比率がユーロ加盟国に義務づけられた60%の上限枠を大幅に上回っているためで、国内外の有力経済研究所は10月に政府に提出した『秋季経済予測』のなかで、財政再建の手綱を緩めないようくぎを刺した。

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減税に否定的な考えはその恩恵を受ける市民の間でも強い。ギリシャなどのデフォルト(債務不履行)危機がユーロ経済を土台から揺るがしているためで、公共放送ARDの委託を受けて世論調査機関のInfratest-dimapが今夏に実施した市民アンケート調査では、「新規債務を減らす方が減税よりも重要だ」との回答が70%を占めた。

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それにも関わらず与党が減税方針を打ち出したのは、少数与党のFDPが2年前の政権合意当時から強く主張してきたためだ。最大与党のCDUは減税に慎重な姿勢を示してきたものの、FDPの要求をある程度受け入れメンツを立てないと政権運営のぎくしゃくが解消されないと判断。ショイブレ財務相(CDU)は「公的債務の削減路線から逸脱しない」範囲で譲歩した。

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減税を実現するには連邦議会(下院)のほか、野党が過半数票を握る連邦参議院(上院)の承認も必要となる。全野党は減税を批判しており、現時点では成立しない可能性が高い。

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介護保険料率引き上げへ

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与党は減税のほか、(1)介護保険の料率を2013年から0.1ポイント引き上げ、痴ほう症患者の介護体制強化に充てる(2)国家助成付きの民間介護保険を導入する(国家助成付き個人年金=リースター年金=の介護版)(3)2~3歳児の育児を行う世帯に手当を支給する(4)移民当初から永住権を得られる年収水準を現行の6万ユーロから4万8,000ユーロに引き下げ、専門人材不足に対応する(5)2012年の交通インフラ予算を10億ユーロ上乗せする――ことでも合意した。

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(5)は現在トラックに限られている高速道路の通行料金を乗用車にも拡大し道路財源とすべきとするCSUの強い要求への一時的な妥協として取りまとめられた。CSUはこの要求を断念しておらず、将来的に再要求する可能性がある。

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