採用募集で不採用となった応募者にその理由を伝える企業はまずない。言いがかりの根拠を与え、下手をすれば裁判に発展しかねないためだ。だが、不採用者がその理由の説明を求めたにもかかわらず企業が拒否すると、差別の兆候と解釈され提訴される可能性がある。欧州連合(EU)の欧州司法裁判所(ECJ)が19日の判決(訴訟番号:C-415/10)そうした判断を示したためである。
\裁判を起こしたのはドイツの通信システムメーカーが募集したソフトウエア開発の職に応募した45歳のロシア人女性。同女性はロシアの大学でシステムエンジニアの修士資格を取得していたが、書類選考で振るい落とされた。被告企業はその後、再び同じ職で募集を行ったため、改めて応募したが、このときも面接に進めずに不採用となった。
\同応募者はこれを受け、性別、年齢、民族的出自を理由に差別されたとして一般平等待遇法(AGG)に基づき損害賠償の支払いを要求。それとともに被告企業が募集したソフト開発職に採用された応募者の提出書類を開示することも要求した。同書類に記載された経歴を自分の経歴と比較することで自分の方が優秀なことを証明し差別の裏付けを取ろうとしたわけである。
\被告企業が要求を拒否したため、原告は提訴。第1審と第2審で敗訴した。一方、最高裁の連邦労働裁判所(BAG)はEU法上の判断をECJに仰いだ。
\ECJは19日の判決で、原告には被告企業の文書を閲覧する権利はなく、被告は閲覧要求を拒否できると言い渡した。その一方で、情報開示の拒否は差別の兆候である可能性があるとも指摘。BAGに対し採用に際して差別がなかったかどうかを明らかにして判決を下すよう命じた。
\法律家は今回の判決を受けて、採用差別訴訟が増えると予想している。従業員を募集する企業は採用基準を明確化して厳格に適用するほか、選考過程を詳細に文書化することが必要になりそうだ。
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