他社の事業を買収した企業は買収時点に買収対象事業で有効だった被用者に対する権利と義務を継承しなければならない。これは民法典(BGB)613a条に明記されたルールである。では、買収以前に合意が成立していたものの合意の発効時期が買収後となっている労使の取り決めについてもこのルールが適用されるのであろうか。この問題をめぐる係争で最高裁の連邦労働裁判所(BAG)が5月に判決(訴訟番号:4 AZR 320/10、321/10)を下したので、ここで取り上げてみる。
\裁判を起こしたのはコールセンターB社に勤務する職員。B社が同業A社の事業を2006年1月1日付で買収したことに伴いB社の社員となった。
\A社では04年、リストラを実施した。その際、被用者は労使協定で定められた権利の一部を放棄。その際、08年1月に発効する協定で賃金を上乗せすることを取り決めていた。新しい雇用主のB社が上乗せ分を支給しなかったため、原告社員はこれを不当として提訴した。
\原告は第1、2審で勝訴したものの、最終審のBAGで敗訴した。判決理由で裁判官は、協定の効力が生じるのは発効日以降だと指摘。B社は事業買収の時点で効力を発していなかった賃金上乗せ協定を継承する義務はないとの判断を示した。
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