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2014/1/22

総合 - ドイツ経済ニュース

年金改革で労使と国の負担が大幅増、産業競争力低下の懸念

この記事の要約

ドイツ政府が計画する公的年金改革法案が施行されると、労使と国の負担は2030年までに累計で約1,600億ユーロ膨らむことが16日、明らかになった。2000年代の構造改革で得られた成果が失われる恐れがあり、経済界は警戒感を […]

ドイツ政府が計画する公的年金改革法案が施行されると、労使と国の負担は2030年までに累計で約1,600億ユーロ膨らむことが16日、明らかになった。2000年代の構造改革で得られた成果が失われる恐れがあり、経済界は警戒感を強めている。同法案は29日の閣議で了承される見通しだ。

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同法案は与党の政権協定に基づいてアンドレア・ナーレス労働相が作成したもので、(1)1991年以前に出産した女性の公的年金受給額を上乗せし、92年以後に出産した女性との格差を是正する(2)公的年金の保険料納付期間が計45年以上の被保険者について支給額の減額なしに年金を受給できる年齢を63歳に引き下げる(3)障害年金を月平均45ユーロ増額する――の3つの柱からなる。政府はこれらの措置をすべて7月1日付で施行する考えで、(1)については支給額を西部地区で子供1人につき月28ユーロ強、東部地区で同26ユーロ弱上乗せする方針。(2)については失業期間も年金保険料の納付期間に算入するとしている。

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これらの措置の実施に向けて、政府は昨年12月、今年の保険料率(労使が折半)を18.9%据え置く法案を連邦議会(下院)に提出した。現在審議中で、1月1日に遡って施行される見通しだ。法改正しなければ18.3%に下がるはずだった。

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保険料率は今後も上がり続ける見通しで、19年には19.7%、30年には最大22%に上昇する。19年からは国の補てん額も引き上げられる予定。

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ドイツは2000年代の構造改革で年金保険料率の引き下げに成功し、企業の間接労務費は低下。年金の平均受給開始年齢も上昇している。公的年金の管理機関である独年金保険連盟(BRV)の統計によると、同年齢は改革前の2000年は60.2歳にとどまっていたが、12年には改革の効果で61.1歳へと上昇した。障害年金の受給者を除くと12年の平均受給開始年齢は64歳に上る(グラフ1を参照)。

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だが、減額なしで年金を満額受給できる年齢が63歳に引き下げられると、年金受給開始年齢を29年までに現在の65歳から67歳に引き上げる構造改革のプロジェクトは骨抜きになる恐れが高い。高齢の被用者は失業手当の受給期間が最高2年と長く、条件を満たした人は実質的に61歳でリタイアすることが可能になるためだ。

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社会の高齢化を背景に年金の平均受給期間が急速に上昇していることもあり、年金保険料と国の補てん金負担は拡大が避けられない見通しだ(グラフ2を参照)。

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ナーレス労働相は景気が順調に推移することを前提に今回の改革案を作成した。このため成長率が予想を下回ると、労使と国の負担はさらに膨らむことになる。63歳で年金の満額受給が可能になった場合、公的健康保険と介護保険の収入が17年までに合わせて約25億ユーロ減少するとの見通しも指摘されている。

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欧州景気が長期低迷するなかでドイツ経済が好調を保っているのは構造改革によるところが大きい。企業の社会保障費負担が再び拡大すると、ドイツの産業立地競争力は低下する恐れがある。

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