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2014/3/19

総合 - ドイツ経済ニュース

ドイツの石油・ガス資産を露企業が取得へ

この記事の要約

ドイツ企業が持つ石油・天然ガス分野の資産をロシア系企業2社がそれぞれ大量に取得する見通しだ。ウクライナ・クリミア情勢の緊迫が高まるなかでロシアへのエネルギー依存が強まることは経済的にも安全保障上も好ましくないため、大きな […]

ドイツ企業が持つ石油・天然ガス分野の資産をロシア系企業2社がそれぞれ大量に取得する見通しだ。ウクライナ・クリミア情勢の緊迫が高まるなかでロシアへのエネルギー依存が強まることは経済的にも安全保障上も好ましくないため、大きな注目を浴びている。政府は静観の構えを示しており、取引に対し拒否権を行使しないもよう。

化学大手の独BASFとロシアの国営天然ガス大手ガスプロムが今後数カ月以内に大規模な資産交換を行う。12日付『ヴェルト』紙が報じたもので、取引が終了するとドイツは天然ガスの供給でロシアへの依存を一段と深めることになる。

両社は2012年11月、資産交換することで合意した。BASFはエネルギー子会社Wintershallを通して西シベリアにあるガス田の採掘権を取得。ガスプロムはその見返りとして西欧で天然ガスの販売・貯蔵事業を展開する両社の合弁事業を完全傘下に収める取り決めだ。計画は昨年12月時点で欧州連合(EU)の欧州委員会から承認されており、BASFの広報担当者は資産交換手続きが年央に終了する見通しを明らかにした。

Wintershallはヤマル半島のウレンゴイ・アチモス・ガス田第4、第5ブロックの採掘権25%強を取得。将来的に同50%まで引き上げるオプション権も確保する。両ブロックは埋蔵量が計24億石油換算バレル(BOE)で、2016年から採掘が始まる。産出規模は年80億立法メートル以上を見込む。

その見返りとして、両社の合弁会社Wingas(ガス取引)、WIEH(同)、WIEE(同)、Astora(ガス貯蔵)をガスプロムの完全子会社とする。また、北海南部で石油・天然ガスを採掘するWintershallの傘下企業Wintershall Noordzee(Winz)をガスプロムに全面譲渡する。

Wingasはドイツの天然ガス取引市場シェアが約20%に上る大手。また、Astoraは西欧最大のガス貯蔵施設を独北部のレーデンで運営している。同貯蔵施設の容量は約44億立法メートルで、ドイツ全体の貯蔵能力(12年末時点で229億立法メートル)のおよそ2割を占める。

ドイツは国内で消費する天然ガスの35%をロシアから調達している。両社の取引が成立すると、国内貯蔵・取引の面でもガスプロムの影響力が強まることになる。

REWは債務圧縮に向け売却

一方、エネルギー大手の独RWE(エッセン)は16日、石油・天然ガス採掘子会社RWE Deaをルクセンブルクの投資会社Letter Oneグループに売却することで合意したと発表した。Letter Oneはロシアの新興事業家であるミハイル・フリードマン氏の投資会社。同日はクリミアでロシア併合に向けた住民投票が行われており、タイミングの悪い発表となった。取引条件の詳細は今後、詰めていく。

RWE Deaはドイツの北海海域や英国、デンマーク、ノルウェー、エジプトなど世界14カ国で採掘を行っている。売上高は18億ユーロと資源採掘会社としては小さいものの、収益力は高く、使用資本利益率(ROCE)は15.7%に上る。

RWEは債務の圧縮に向けて同子会社を売却する意向を昨年3月に表明した。巨額の売却益が見込めるほか、同子会社がエジプトで巨額投資を行うことを計画しているためだ。投資はリスクを伴い回収にも時間がかかるという事情がある。

Letter OneはRWE Deaを約6億ユーロの債務引き受けも含めておよそ51億ユーロで買収する。RWEが実施した競売入札には独競合Wintershallも参加したものの、消息筋によると、買収提示額は40億ユーロに満たなかったという。

RWEは307億ユーロもの純債務を抱えているうえ、2013年には戦後初の最終赤字を計上した。4月16日に株主総会を控えていることから、RWE Deaの売却交渉をそれまでにまとめ上げたかったもようだ。

フリードマン氏はロシアの新興財閥Alfaグループを率いる富豪。同グループは銀行、石油・ガス、保険、小売、電気通信など幅広い分野で事業を展開している。

与野党議員から懸念の声

安全保障の上で重要な産業分野の企業の資本25%超を外資が取得する場合、政府は貿易法の規定によりこれを阻止できる。ただ、メルケル政権はBASFとRWEの取引に特に懸念を抱いていないようで、RWEのペーター・テリウム社長は「政府にはすでに連絡を入れたが、政府が異議を挟む兆候はない」と明言した。ジグマール・ガブリエル経済相の広報担当者は政府に売却計画を審査する権限があるとしながらも、REW Deaの売却がエネルギー安定供給に支障をきたす恐れはないとの見方を提示。政府報道官も「ドイツ経済は統制経済ではない」との立場を示しており、介入しない考えを示唆した。

一方、与野党の政治家の間からは懸念が出ている。与党キリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)のヨアヒム・プァイファー連邦議会議員(経済政策担当)は、現在の緊迫した情勢と今後の見通しを踏まえ、RWE Deaの売却計画を当面、凍結することを検討するよう提言した。

CDU/CSUのミヒャエル・フックス院内副総務はロシア産天然ガス・石油に対するドイツの依存度が高いことを指摘したうえで、Wintershallのガス貯蔵事業をガスプロムが買収する計画に言及。ドイツはロシアに脅迫され得る状況に陥りかねないと懸念を示した。また、欧州連合(EU)とロシアの経済制裁はそれぞれエネルギーが主な対象分野となるとの見通しを述べ、石油と天然ガスの調達先をロシア以外に広げるよう独企業に促した。