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2015/9/30

総合 - ドイツ経済ニュース

VW社長が引責辞任、排ガス不正で

この記事の要約

自動車大手フォルクスワーゲン(VW)グループのマルティン・ヴィンターコルン社長は23日、辞任した。同社長は今春に勃発したピエヒ監査役会長(当時)との権力闘争に勝利。当初の予定では25日の監査役会で任期延長が正式決定される […]

自動車大手フォルクスワーゲン(VW)グループのマルティン・ヴィンターコルン社長は23日、辞任した。同社長は今春に勃発したピエヒ監査役会長(当時)との権力闘争に勝利。当初の予定では25日の監査役会で任期延長が正式決定されることになっていたが、同グループがディーゼル車の排ガスを不正操作していた問題の発覚を受けて、辞任に追い込まれた格好だ。25日の監査役会では子会社ポルシェAGのマティアス・ミューラー社長(62)が新社長に同日付で就任することが決まった。

ヴィンターコルン氏はプレスリリースで「私自身は関知していなかった」としつつも、VWは人事も含めて刷新が必要だと指摘。「会社の利益のために辞任する」と強調した。

同氏はこれまで兼任してきた親会社ポルシェ・ホールディング(VWの子会社ポルシェAGとは別会社)の社長職からは退かない。ただ、ヴィンターコルン氏に対しては独検察当局が捜査を開始しており、捜査の結果次第では同職の辞任も余儀なくされる可能性がある。

VWは違法なソフトウエアを使って排ガス値を操作していた。メディア報道によると、同ソフトはもともと独自動車部品大手のボッシュがテスト用として開発した。ボッシュはVWに対し2007年の時点で、同ソフトを規制逃れのために市販車に搭載すれば違法になると警告していたという。VWの技術者が同ソフト搭載の違法性を11年に内部告発していたとの報道もある。

こうした警告が上層部に伝えられずにもみ消された可能性はあるものの、仮にヴィンターコルン社長(当時)まで報告が届いていれば、同社長は刑事責任を問われ、損害賠償の支払い義務も発生することになる。

同ソフトを搭載するモデルは世界で1,100万台で、そのうちVWブランド乗用車が約500万台、アウディが210万台を占める。このほか、セアト、シュコダ、VWブランド小型商用車も該当することが分かっている。ドイツでは計280万台が当てはまる。

VWはリコール(無料の回収・修理)を実施する方針で現在、修理方法を検討している。リコールに関しては(1)ソフトの修正だけで済むのか、それとも部品の交換も必要になるのか(2)ソフト修正の結果、車両の出力が低下したり燃費が悪くなったりしないか――が大きな関心を集めている。(1)の背景には部品の交換も必要となればリコールコストが膨らむという事情がある。

一方、出力低下などの問題が発生すると、自動車の持ち主に対する損害賠償の支払いが避けられなくなる。販売時に約束したよりも性能が低くなり、車両価値が低下するためだ。

VWは今回の問題で、米国だけで180億ドル強の制裁金支払いを命じられる可能性がある。また、損賠の支払いを求めるVW車とアウディ車の持ち主の集団訴訟の動きも活発化しているうえ、株主からは適時開示義務違反で訴えられる恐れがある。財務の先行き懸念は強く、格付け大手各社は評価を引き下げる方向だ。

他のメーカーも数値に疑念

排ガス不正操作の疑惑はこの間、VW以外のメーカーにも飛び火している。独『アウト・ビルト』誌が24日付のオンライン版で報じたところによると、米国に拠点を置く非営利団体(NPO)国際クリーン交通委員会(ICCT)が実施した走行テストではBMWのSUV「X3xドライブ」でも欧州排ガス基準「ユーロ6」の許容上限(走行1キロメートル当たり80ミリグラム)の11倍に上る窒素酸化物(NOx)が検出されたという。VW車両平均の同22倍を下回るものの、室内の模擬設備で得られた公式値との隔たりは極めて大きい。BMWは不正容疑を否認しているものの、同報道を受けて株価は急落した。独環境保護団体DUHはダイムラーやオペルなど他のドイツメーカーでも公式値とDHUの測定値に大きな隔たりがあると批判している。

ドイツのドブリント交通相は当初VWの車両に限定するとしていた調査対象を他のメーカーの車両にも拡大する意向を表明した。