ライフサイエンス大手の独バイエルは23日、米農業化学大手モンサントに対する買収提案の内容を公開した。市場の観測や株主の問い合わせを受けた措置。買収価格は最大620億ドル(550億ユーロ強)で、ドイツ企業が国外企業を対象に行うM&Aでは過去最高となる見通しだ。
バイエルがモンサント買収を検討しているとの観測は12日付のブルームバーグ通信の報道で浮上した。両社は当初、報道内容へのコメントを控えていたものの、モンサントは18日になって声明を発表。バイエルから「一方的で拘束力のない買収提案」を受けたとしたうえで、財務・法務アドバイザーに相談しながら同提案を検討することを明らかにした。
バイエルもモンサントの声明を受けて19日にプレスリリースを発表。「合意に基づく友好的なモンサント買収について非公式に協議するために」バイエルの役員が最近、モンサントの取締役と会談したことを明らかにした。
バイエルのモンサント買収方針に対しては財務負担が大きすぎるとの懸念が市場や株主から出ており、バイエルはこれを踏まえて株式公開買い付け(TOB)計画の詳細を明らかにした。モンサントを1株当たり122ドルで買収する考え。これは過去3カ月の加重平均株価を36%上回る水準で、モンサントの企業価値を620億ドルと評価したことになる。
格付け引き下げの恐れ
買収価格の適正性を示す基準としては一般的に、企業価値(EV)が減価償却前営業利益(EBITDA)の何倍になっているかを示すEV/EBITDA倍率が利用される。バイエルのモンサント買収は同倍率が15.8倍で、市場平均(7~9倍)の2倍に達している。買収合戦が繰り広げられる場合は10倍を超えることも珍しくないものの、バイエルの今回のTOBはかなり割高な‘買い物’となる。
買収資金は自己資本と債務の組み合わせで確保する考えで、自己資本部分はモンサントの企業価値(620億ドル)の約25%(155億ドル)。バイエルは同155億ドルを増資で賄う意向だ。
同社は買収が実現した場合、初年度から一株利益が上昇し、4年後にはシナジー効果15億ドルが見込めるとして、債務の返済に支障は出ないとの立場を強調している。だが、格付け大手スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は同買収が実現した場合、バイエルの格付けを現在の「A-」から引き下げる構えを見せている。モンサント買収は財務リスクが大きいと判断しているためで、懸念の声はアナリストの間でも強い。
国外企業を対象とするドイツ企業のM&Aではこれまで、自動車大手ダイムラー・ベンツ(現ダイムラー)と米クライスラーの合併(1998年)が最大(404億6,000万ドル)だった。バイエルが行ったものでは2006年のシェリング買収(170億ユーロ)が最大。モンサントの買収価格はシェリング買収の3倍に上り、スイスの農薬大手シンジェンタに対する中国化工の買収提示額(最大430億ドル超)も上回る。
買収が実現すると、バイエルの農業化学部門クロップサイエンスの売上高は104億ユーロから2倍強の231億ユーロ(15年ベース)へと拡大し、ダントツの世界1位メーカーとなる見通し(グラフ参照)。クロップサイエンスの本社は独モンハイムにとどめるものの、モンサントが強みを持つ種子事業については米セントルイスにあるモンサントの本社を統括拠点とする考えだ。