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2016/11/16

総合 - ドイツ経済ニュース

政財界にトランプショック、メルケル首相は内向き志向をけん制

この記事の要約

米国の大統領選挙で共和党のドナルド・トランプ候補が勝利したことがドイツの政財界に大きな波紋を広げている。選挙戦中に保護主義や排外主義、孤立主義的な主張を繰り広げてきたためだ。政界も財界も世界の経済秩序や安全保障に大きな影 […]

米国の大統領選挙で共和党のドナルド・トランプ候補が勝利したことがドイツの政財界に大きな波紋を広げている。選挙戦中に保護主義や排外主義、孤立主義的な主張を繰り広げてきたためだ。政界も財界も世界の経済秩序や安全保障に大きな影響が出ることを強く警戒している。

メルケル首相は9日、トランプ候補の勝利を祝福する声明のなかで、ドイツと米国が民主主義、自由、法の尊重、人間の尊厳という価値を共有していることを強調したうえで、トランプ次期大統領とはこれらの価値に基づいて緊密に協働していきたいとの立場を表明した。また、経済、軍事で大きな力を持つ米国の大統領の影響力は国境を越えて世界に及ぶとして、同国大統領が担う責任の重さを指摘。内向き志向な政策をとらないようけん制した。

閣僚レベルの反応はストレートで、ガブリエル経済相(副首相)は「トランプは新しい権威主義・排外主義インターナショナルの先導者だ」と批判。ロシアのプーチン大統領、トルコのエルドアン大統領と同レベルの問題のある政治家だと酷評した。

「インターナショナル」という言葉はもともと労働者の国際連帯を目指す社会主義の“合言葉”であったが、欧米では近年、自国中心の極右・ポピュリズム政党が反グローバリズム・反欧州連合(EU)の旗印のもとで横のつながりを強めている。英国のEU離脱運動を先導した英国独立党(UKIP)のファラージ党首代行が12日、当確直後のトランプ次期大統領と会談したのはそうした流れを象徴する出来事だ。

フォンデアライエン独国防相はトランプ候補の勝利を「大きなショックだ」としたうえで、「我々はこの現実に取り組まなければならない」と発言。同候補が北大西洋条約機構(NATO)の集団安全保障体制の見直しを要求したことを踏まえ、欧州は自らの防衛能力を高めていかなければならないとの認識を示した。

独商工会議所連合会(DIHK)のヴァンスレーベン専務理事は、EUと米国が締結を目指す環大西洋貿易投資パートナーシップ(TTIP)協定を批判してきたトランプ候補の勝利を受けて「ドイツ企業に大きな困惑が広がっている」ことを明らかにした。「ほとんどのドイツ人は違った選挙結果(ヒラリー候補の勝利)を望んでいた」とも述べている。

独産業連盟(BDI)のグリロ会長は「人々の不安をあおるポピュリズムの政治は見かけ上の解決策を提供するに過ぎず、実際には人々と経済に大きな害をもたらす」と指摘し、トランプ次期大統領を批判した。また、選挙戦で繰り広げてきた孤立・保護主義的な言説を止めるよう要求。「米国は開かれた市場をこれまでに引き続き尊重しなければならない」と訴えた。

メキシコ生産に黄信号

トランプ候補の勝利に対しては業界団体レベルでも声明が相次いだ。ドイツ機械工業連盟(VDMA)は「ドイツ製の機械は米国の産業競争力の向上に大きく寄与している」と指摘。次期大統領が選挙戦で喧伝した「アメリカ・ファースト(米国第一主義)」の政策を実施すれば外国だけでなく米国とっても痛手になるとして熟考を促した。

自動車業界はトランプ候補がTTIPだけでなく、北米自由貿易協定(NAFTA)の見直しも主張してきたことを特に問題視している。人件費が安いメキシコを米国向け輸出の主要拠点としているためだ。

トランプ候補が大統領選で勝利した大きな要因の1つとして、これまで民主党の牙城であった「ラストベルト」と呼ばれる米中西部・北東部地域の斜陽産業地帯で有権者の高い支持を獲得したことがある。同候補はラストベルトの有権者に外国製品の流入を制限するために通商上の障壁を設けるとアピールしており、独自動車メーカーはメキシコなどから米国への大規模な生産移管を余儀なくされる可能性がある。独自動車工業会(VDA)のヴィスマン会長は「米国が新大統領の下で中国と同様に、国際的な関係と通商を犠牲にして自国経済を優先することを懸念する」との声明を出した。