ドイツの共同決定権はEU法違反か

ドイツの大手企業の被用者のうち国内で勤務する者は、企業の意志を経営側と共同で決定する権利(共同決定権、Mitbestimmungsrecht)の1つとして、被用者の代表を従業員の選挙で監査役会(Aufsichtsrat)に送り込む権利(選挙権)と、自らが被用者代表の監査役候補として立候補する権利(被選挙権)を持つ。これは事業所体制法(BetrVG)で定められたルールである。この選挙権と被選挙権は国外子会社の被用者には認められていない。

国外子会社に勤務する被用者を排除したこのルールは、不当な差別の禁止や域内移動の自由を定めた欧州連合(EU)法に抵触しないのだろうか。この問題をめぐる裁判で欧州司法裁判所(ECB)が18日の判決(訴訟番号:C-566/15)で判断を示したので、ここで取り上げてみる。

裁判は独旅行大手トゥイの株主であるコンラート・エルツベルガー氏が起こしたもの。

同氏は被用者代表監査役の選挙権と被選挙権を定めたドイツ法(BetrVG)を、(1)国外子会社の被用者はその大部分がドイツ以外の国籍を持つことから、国籍による差別一般を禁止したEU法に違反する(2)ドイツ国内の被用者は国外子会社に移籍すると選挙権と被選挙権を喪失することから、これを嫌って域内自由移動の権利行使を見合わせるようになる――と批判し、裁判を起こした。ベルリン高等裁判所はEU法に関わる問題であることから、ECJの判断を仰いだ。

ECJは(1)についてまず、国籍による差別一般を禁止したEU法でなく、国籍を理由に被用者の待遇を区別することを禁止した「欧州連合の機能に関する条約(TEUF)」45条に照らして判断しなければならない問題だと指摘。そのうえで、TEUF45条のルールは実際に国外に移動した被用者あるいはその意志にある被用者にのみ適用されるもので、単に国外子会社に勤務しているに過ぎない被用者には適用され得ないとの判断を示した。つまり国外子会社の被用者には、差別されていないかどうかの判断を受けるための前提条件がそもそも欠けていると言い渡したわけである。

(2)に関しては、被用者の域内自由移動を保障したEU法上の権利は、被用者が出身国で享受していた国内法に基づく権利を他のEU加盟国でも享受することを保障するものではない指摘。この件でも原告の訴えを退けた。

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