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2018/10/31

総合 - ドイツ経済ニュース

メルケル首相が21年までに引退、州議選の連続大敗受けて

この記事の要約

ドイツ中西部のヘッセン州で28日に行われた州議会選挙で、国政与党のキリスト教民主同盟(CDU)と社会民主党(SPD)はともに得票率を10ポイント以上、落とし大敗した。国政与党は14日のバイエルン州議選でも2ケタ台の得票減 […]

ドイツ中西部のヘッセン州で28日に行われた州議会選挙で、国政与党のキリスト教民主同盟(CDU)と社会民主党(SPD)はともに得票率を10ポイント以上、落とし大敗した。国政与党は14日のバイエルン州議選でも2ケタ台の得票減となっており、迷走する政府・与党に対する有権者の厳しい審判が下された格好だ。CDUの党首であるアンゲラ・メルケル首相は29日、責任を取って次期党首選挙に出馬しないほか、任期終了をもって首相職からも退く意向を表明した。

ヘッセン州議選でのCDUの得票率は2013年の前回選挙を11.3ポイント下回る27.0%となり、52年ぶりの低水準へと下落。SPDは10.9ポイント減の19.8%へと落ち込み、戦後最低を更新した。

他の主要政党は軒並み、得票率を伸ばした。特に緑の党は8.8ポイント増の19.8%と大きく伸びて、SPDと同率2位を獲得。右派ポピュリズム政党「ドイツのための選択肢(AfD)」は9.0ポイント増の13.1%となり、同州議会への初進出を果たした。AfDはこれで、国内16州の州議会すべてに議員を送り込むことになった。

このほか中道右派の自由民主党(FDP)が2.5ポイント増の7.5%、急進左派の左翼党が1.1ポイント増の6.3%へと拡大した。

公共放送ARD向けに世論調査会社インフラテスト・ディマップが実施した調査によると、CDUはSPDを除くすべての主要政党に有権者を奪われた。特に緑の党とAfDへの票の流出が目立つ。SPDからはすべての主要政党に有権者が流出。同じ中道左派の緑の党がダントツ1位の受け皿となった。

各党の獲得議席数はCDUが40、SPDと緑の党がともに29、AfDが19、FDPが11、左翼党が9。合計は137で、過半数ラインは69となっている。次期政権はCDUが中心となって樹立することになる。可能性としては(1)緑の党との連立を継続する(2)SPDと連立する(3)緑の党およびFDPと連立する――が考えられるものの、過去5年間の緑の党との連立政権がうまく機能したうえ、有権者の支持も最も高いことから(1)のシナリオが有力視されている。

有権者は政府に反省を要求

国政与党は今夏に難民政策をめぐり大きく対立し、政権崩壊一歩手前の状態へと陥った。難民問題を追い風に勢力を強めるAfDに危機感を持ったバイエルン州の地方政党・キリスト教社会同盟(CSU=国政与党)が、リベラルな難民政策を堅持するメルケル首相との対決姿勢を打ち出したことが原因だ。

9月には問題発言を行った憲法擁護庁(BfV)長官の更迭をめぐって対立した。CSUの党首であるホルスト・ゼーホーファー内相が解任に強く反対したことから、3党の党首は同長官を格上の内務次官に昇進させるという安易な妥協を行った。

旧型ディーゼル車の走行禁止問題でも排ガス浄化装置の後付けを自動車メーカーに義務づけるかどうかでCSUとSPDが対立し、対策を長い間、打ち出せなかった。シュツットガルトやフランクフルトなど主要都市で来年から走行禁止が避けられない公算が高まり、9月になってようやく浄化装置後付けを含む対策案で合意したものの、走行禁止を回避できるかは不透明な状況だ。

メルケル政権のこうした不手際に対する有権者の不満は大きく、3党の支持率は国政レベルでも下落。公共放送ZDFの委託で世論調査機関ヴァーレンが実施した最新の有権者アンケート調査では、合計の支持率が41%(CDU/CSU=27%、SPD=14%)となり、過半数を大きく割り込んだ。

有権者の多くは与党迷走の主な責任がCSUにあるとみているものの、今回のヘッセン州議選ではCSUに振り回されるCDUとSPDにも厳しい審判が下された。同州の有権者を対象とするヴァーレンの最新アンケート調査では、「州議会選挙は連邦政府(メルケル政権)に反省を促す良い機会になる」との回答が50%に上った。CDUの投票者では同73%に達する。

党首選の勝者が首相候補の見通し

CDUは12月の党大会で次期党首を選出する。メルケル首相はこれまで続投に意欲を示してきたが、ヘッセン州議選の惨敗を受けて出馬断念を表明した。首相職についても任期終了まで務めて退任。次回の連邦議会(下院)選挙には出馬しない。退任後に欧州連合(EU)の要職に就く考えがないことも明言しており、政治の一線から退く意向だ。

順調にいけば21年秋に首相を退任する。議会が早期解散された場合は引退が前倒しされる。

党首選にはすでにアンネッテ・カンプカレンバウアー幹事長、保守派のイェンス・シュパーン保健相およびがメルケル首相のかつてのライバルであるフリードヒリ・メルツ元院内総務が出馬の意向を表明した。ノルトライン・ヴェストファーレン州のアルミン・ラシェット首相は出馬を検討中。このほか、シュレスヴィヒ・ホルシュタイン州のダニエル・ギュンター首相が次期党首の有力候補と目されている。次期党首は連邦議会で統一会派を組むCDUとCSUの首相候補となる公算が高いため、出馬を見送ると次期首相候補レースから脱落する恐れがある。

国政与党の大敗を受けて、メルケル政権が崩壊し、連邦議会の解散・総選挙が行われるとの観測がある。ただ、現在の状況で選挙を行っても与党3党が議席を大幅に失うのは確実なため、連立政権は当面、維持される可能性が高い。