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2018/11/7

総合 - ドイツ経済ニュース

ドイツが対中姿勢を転換、経済界は依存の低減を呼びかけ

この記事の要約

中国に対する警戒感がドイツの政財界でこれまで以上に強まってきた。中国事業に伴うリスクが近年、高まっているためで、独産業連盟(BDI)は加盟企業に中国依存の低減を呼びかける意向だ。ペーター・アルトマイヤー経済相は就任後初の […]

中国に対する警戒感がドイツの政財界でこれまで以上に強まってきた。中国事業に伴うリスクが近年、高まっているためで、独産業連盟(BDI)は加盟企業に中国依存の低減を呼びかける意向だ。ペーター・アルトマイヤー経済相は就任後初のアジア外遊で訪問先に日本と東南アジアを選定。経済関係が最も強い中国をあえて外し、同国に対する距離感を演出した。

中国政府は同国で事業を行う外資に対し現地企業との合弁設立を義務づけ、これを通した技術移転を強要している。また、中国企業による知財権侵害の取り締りを積極的に行わないほか、外資による中国市場での活動を強く制限している。これらの問題に対する独・欧州企業の不満は2000年代からあったものの、最近は規制が一段と強化されており、先行き懸念が強まっている。

情報漏えいを防ぐために本社などとの通信に仮想プライベートネットワーク(VPN)を用いる外資に対し、国の認証を受けたVPN事業者の利用を義務づける中国のサイバーセキュリティ法はその一例で、外資は企業秘密が筒抜けになることを恐れている。

中国政府が昨年夏に公表した輸出管理法草案も独経済界の警戒を引き起こしている。同国の経済的な利害に反する輸出を規制することを狙った同草案には意味があいまいな言葉が用いられているうえ、中国製部品を搭載した製品を第3国が輸出する場合でも規制の対象になることが明記されているためだ。

ロイター通信が報じたところによると、BDIはこうした状況を踏まえて「パートナーとシステミックな競合―国家が統制する中国経済にわれわれはどのようにかかわるべきか?」と題するポジションペーパー案(未公開)を作成した。

同案は中国市場の「真の開放」は今後もおそらくないと予想。共産党が経済・社会の全領域をコントロールする中国の統制経済と「われわれの開かれた市場経済モデル」は相いれず、競合関係にあると問題の根底を指摘している。

中国のダイナミックな成長は販売、調達の両面で重要だが、「中国への関与に伴うリスクを調査することもいや増して重要になっている」として、「場合によってはサプライチェーン、生産拠点、販売市場の多様化を通して依存を最低限度に引き下げていく」ことが重要だと結論づけている。

一方、ドイツとフランスの在中国大使は現地経済誌『財新』への共同寄稿文で、外資に対する不当な制限の廃止を中国政府に訴えた。中国企業が欧州で得ているのと同じ待遇を欧州企業に与えるよう求めている。具体的には◇農産物に対する迅速かつ科学的に根拠のある手続きの導入◇合弁設立義務の廃止◇サイバーセキュリティ措置の導入が事業活動の障害と差別につながらないことの保証◇知財権保障の改善――の4点を要求した。

「中国とは利害を共有するだけの関係」

アルトマイヤー経済相は10月30日~11月1日の3日間、日本とインドネシアを訪問した。日本では世耕弘成経済産業相、石田真敏総務相と会談。両国関係の強化に向けて「経済政策及び経済協力に関する日独共同声明」に署名した。インダストリー4.0、電気自動車、自動運転車、人工知能などの最先端技術、宇宙探査・利用、エネルギー、通商政策などの面で協力していく。同経済相は「日本は、東アジアにおいて私たちと価値を共有する戦略的パートナーであり、ドイツと同様、自由貿易と多国間貿易システムを強く標榜している。このことは、現在のように世界中で保護主義的傾向と国家資本主義の影響が強まる中にあってはとりわけ重要である」と明言。米国と中国を間接的に批判し、日本との関係強化に意欲を示した。中国とは価値でなく「利害を共有」しているに過ぎないとの認識を明らかにした。

日本を「価値のパートナー」と位置づける表現は河野太郎外相が訪独した9月に独外務省も行っており、ドイツは自由経済などのリベラルな価値を共有できる日本と歩調を合わせていく考えだ。

シーメンス社長が一帯一路に警鐘

アルトマイヤー経済相はインドネシアでは、首都ジャカルタで開催された「ドイツ財界アジア太平洋会議(APK)」に出席した。中国に比べてこれまでドイツが軽視してきた東南アジアとの関係を強化し、中国依存を引き下げたいとの思惑が背景にある。

中国は市場の閉鎖性や国家統制の強化のほか、米国との通商摩擦も同国で事業を展開する外資の大きなリスク要因となっている。中国に偏ったアジアでの生産を東南アジアへと分散していけば、米国が中国に対する締め付けを強化してもリスクを軽減できることから、独企業は東南アジアシフトに着手。ベアリング大手のシェフラーは来年5月、世界各地への輸出拠点となる巨大工場をベトナムに開設する。

APKでは電機大手シーメンスのジョー・ケーザー社長が予想外の発言をして注目を集めた。同社長は中国主導の広域経済圏構想「一帯一路(BRI)」に言及。「新しいシルクロード(BRI)は中国の過剰生産能力のはけ口として利用される。(中国からの)一方通行路になる恐れがある」と警鐘を鳴らした。

シーメンスは6月、一帯一路プロジェクトを支援する協業合意を中国企業と数多く、締結するとともに、専用の事務所を北京に開設した。BRIには積極的に関与している。ケーザー社長自身も「(BRIは)自由で公正な新しい世界貿易秩序となる可能性を秘めている」と語っていた。その当人がわずか数カ月後に手のひらを返したような発言をしたことは、独政財界の対中姿勢の転換を示唆するものとみられる。