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2019/1/30

総合 - ドイツ経済ニュース

2038年までの石炭発電廃止を諮問委が答申

この記事の要約

石炭火力発電の廃止に向けた政府の諮問委員会(石炭委員会)は26日、最終答申書を21時間に及ぶ審議の末にまとめ上げた。石炭発電を遅くとも2038年までに全廃することを提言しており、ドイツは原子力と石炭発電を世界で初めてとも […]

石炭火力発電の廃止に向けた政府の諮問委員会(石炭委員会)は26日、最終答申書を21時間に及ぶ審議の末にまとめ上げた。石炭発電を遅くとも2038年までに全廃することを提言しており、ドイツは原子力と石炭発電を世界で初めてともに廃止する国となる。国内発電の4割弱を占める石炭発電を今後、大幅に縮小していくと、経済や雇用、社会に大きな影響が出ることから、答申書にはこれらの問題への対策案も盛り込まれた。政府は提言内容を踏まえて4月末に法原案を公表する予定だ。

ドイツ政府は2016年11月、「温暖化防止計画2050」を閣議了承し、二酸化炭素(CO2)の排出量と吸収量を同量とする「カーボンニュートラル」を50年までにほぼ実現するという目標を打ち出した。産業革命前からの世界の平均気温上昇幅を2度未満に抑えることなどを取り決めた前年末のパリ協定を受けたもので、同国全体のCO2排出量を1990年の12億4,800万トンから30年までに「5億4,300万~5億6,200万トン」へと56~55%削減する目標を設定した。削減目標はさらに、エネルギー業界、建造物、交通、製造業、農業の5分野に分けて定められおり、エネルギー業界は90年の4億6,600万から「1億7,500万~1億8,300万トン」へと62~61%引き下げることになっている。

エネルギー業界では石炭発電でCO2の排出量が特に多い。このため石炭発電を将来的に廃止することで国内の政治・社会的な合意はすでに形成されている。

ただ、同発電を政策的に廃止するとなると、◇廃止の時期をいつに設定するのか◇廃止に伴い予想される様々な問題にどう対処するのか――という課題が出てくることから、政府は石炭委員会を18年6月に設置し、検討を委ねた。同委は正式名称を「成長・構造転換・雇用のための委員会」といい、委員には経済界、労働組合、環境保護団体、学識経験者など幅広い分野の代表が名を連ねている。

廃止については早期実現を求める環境団体と、産業競争力や雇用への影響を踏まえて早期実現に慎重な経済界や労使、石炭産業を抱える州が対立したことから、石炭委は今回の答申で、早ければ35年、遅くとも38年に廃止することを提言した。廃止時期に幅を持たせることで委員会内の合意を図った格好だ。最終的にいつ廃止するかについては、温暖化の進行状況や電力供給の安定性などを踏まえて32年に決定することを盛り込んだ。

炭鉱地域振興に400億ユーロ

石炭・褐炭発電の量は昨年、約43ギガワット(GW)に上った。同委はこれを22年までに30GW、30年までに17GWへと引き下げていき、35~38年に全廃するという時程案を提示した。

石炭・褐炭発電は昨年、国内発電全体の38%を占めており、ドイツの主要な電源だ。同国はこれを今後、大幅に減らしていくうえ、22年には原子力発電も廃止することから、23年以降は電力供給の不安定化や電力料金の上昇といったリスクが高まる。そうした問題は市民の生活を直撃するうえ、産業立地競争力を低下させる恐れもある。

石炭委はこうした懸念を踏まえ、独立した立場の専門家委員会による石炭廃止計画の検証を23年、26年、29年に行うよう提言した。

ただ、電力価格の上昇は避けられないとみており、23年以降、補助金を少なくとも年20億ユーロを交付して消費者・企業の送電料金負担を軽減するよう求めている。また、火力発電所のCO2 排出権取得に伴うコストの需要家負担について、化学・鉄鋼などエネルギー集約型企業を対象とする軽減策を20年の失効後も継続できるよう欧州連合(EU)に申請することも促している。

ドイツは不純物が多い低品位の石炭である褐炭の産出量が世界で最も多い。このため褐炭は最大の電源となっており、同国の発電に占める割合は24%に上る。

褐炭は独東部のザクセン、ザクセン・アンハルト、ブランデンブルク州と、西部のノルトライン・ヴェストファーレン州で主に採掘され、現地の発電所で利用されている。このため、石炭発電を廃止すると、発電・褐炭採掘を行う企業や就労者が直接的な影響を受け、地域経済・社会が大きな打撃を被る恐れがある。エネルギー大手RWEのマルティン・シュミッツ社長は、石炭産業の就労者(計2万人)の多くが23年までに整理されるとの見方を示した。

石炭委はこれらの問題の対策として、(1)閉鎖対象となる発電所の運営事業者に国が補償金を支払う(2)炭鉱地域に国と州の官庁を移転するほか、研究機関を新設し5,000人の雇用を創出する(3)褐炭4州に総額400億ユーロを国が提供し、産業構造の転換などを支援する――を提言した。

(3)の支援は年当たり20億ユーロで、期間は計20年間に及ぶ。20億ユーロのうち13億ユーロは炭鉱地域の経済振興向けで、すでに600件以上のプロジェクトがリストアップされている。残り7億ユーロは用途が定められておらず、当該州は投入分野を自由に決めることができる。

石炭委の答申内容を経済界はおおむね支持しており、独化学工業会(VCI)のウテ・ティルマン専務理事はエネルギー集約型産業の負担軽減提案が盛り込まれたことを高く評価した。ペーター・アルトマイヤー経済相は複雑に入り組んだ利害を踏まえてまとめられた答申書を「巨大な進歩だ」と称賛。炭鉱地域の支援法案と、どの発電所をいつ廃止するかを定めた法案の作成方針を明らかにした。