未消化の有給休暇の相続権、独最高裁も認める判決

被用者が死亡したために消化できなかった年次有給休暇は金銭に換算されたうえで遺産として相続される。これは欧州連合(EU)労働時間指令2003/88/EC7条1項の規定をもとにEU司法裁判所(ECJ)が2014年の判決(訴訟番号:C-118/13)で示した判断であり、ドイツを含む全加盟国に適用される。この判例などに基づいてドイツの最高裁である連邦労働裁判所(BAG)が22日に判決(訴訟番号:9 AZR 45/16)を下したので、ここで取り上げてみる。

裁判は2010年12月20日に死亡したヴッパータール市職員バウアー氏の未亡人が同市を相手取って起こしたもの。バウアー氏は10年8月に重度の障害者の認定を受けていたことから、年次有給休暇の日数が2日、上乗せされていた。

死亡時点で10年の有給休暇が計25日、消化されずに残っていた。原告未亡人はこれを受けて、同25日分を金銭に換算して支払うよう市に要求したものの、市は「有給休暇の請求権は被用者の死亡により消滅するため、未消化の有給休暇は遺産に該当しない」とした11年9月のBAG判決を理由に拒否。原告はこれを不当として提訴した。

提訴後の14年、ECJは上記の判決で、被用者が死亡したために消化できなかった年次有給休暇は金銭に換算されたうえで遺産として相続されるとの判断を言い渡した。

BAGはバウアー未亡人の裁判でECJの同判決を踏まえたうえで、ECJに対しさらに踏み込んだ判断を要請した。具体的には(1)ドイツの法律では有給休暇を相続財産とすることができないという問題(2)被用者が死亡すると被用者を疲れから回復させるという有給休暇の目的を達成できなくなる問題――を指摘。こうした問題があるにもかかわらず遺族は有給休暇の権利を相続できるのかをECJに問うた。

ECJはまず(1)の問題について、有給休暇の請求権は被用者が死亡しても失効しないとしたEU法の規定を改めて指摘したうえで、国内法が有給休暇の権利相続を認めていない場合、遺族はEU法を根拠に同休暇の金銭換算支給を請求できるとの判断を示した。

(2)については有給休暇の権利には休暇を取得するという時間的な側面と、休暇中も給与の支給を受けるという金銭的な側面があり、この両側面はEU社会法とEU基本権憲章でともに保障された基本権に当たると指摘。被用者の死亡により時間的な権利はなくなるが、金銭的な権利は失効せず相続対象になるとの判断を示した。

BAGはECJのこの判決を踏まえ、バウアー未亡人に夫の有給休暇の相続権があることを認定。被告ヴッパータール市に5,857.75ユーロの支払いを命じた。同判決の国内法上の根拠として、遺産は相続人に相続されるとした民法典(BGB)1992条1項と、雇用関係の終了時点までに消化できなかった年次有給休暇は金銭に換算して退職する被用者に支給されるとした有給休暇法(BUrlG)7条4項の規定を示した。

BAGはさらに、すべての被用者に認められた法定の有給休暇だけでなく、障害者に与えられる有給休暇も相続対象になるとの判断を示した。また、労使協定によって上乗せされた有給休暇については、相続対象にならないことが記されていない限り、相続人に相続されると言い渡した。

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