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2019/5/22

ゲシェフトフューラーの豆知識

全勤務時間の記録は雇用主の義務=EU司法裁

この記事の要約

欧州連合(EU)域内で業務を行う雇用主は各被用者の労働時間を記録しなければならない――。EU司法裁判所(ECJ)は14日の判決(訴訟番号:C-5/18)でそんな判断を示すとともに、同記録義務を法制化するよう加盟国に命じる […]

欧州連合(EU)域内で業務を行う雇用主は各被用者の労働時間を記録しなければならない――。EU司法裁判所(ECJ)は14日の判決(訴訟番号:C-5/18)でそんな判断を示すとともに、同記録義務を法制化するよう加盟国に命じる判決を下した。連邦雇用庁(BA)傘下の労働市場・職業研究所(IAB)によると、ドイツでは全被用者を対象とする労働時間の記録ルールを持たない企業が3割に上っており、ECJ判決は大きな波紋を広げている。今回のコラムではこの裁判を取り上げてみる。

裁判はスペイン労組CCOOがドイツ銀行の現地法人(以下:ドイツ銀)を相手取って起こしたもの。ドイツ銀では被用者が実際に労働を行った時間のうち残業時間のみを記録するルールを採用していた。これはスペインの最高裁判所が下した同国法の解釈に従ったもので、国内法上の問題はなかった。

だがCCOOは、残業時間しか記録しないのでは法定の最大許容労働時間が順守されているかどうか確かめることができないと批判。正規の労働時間を含むすべての労働時間を記録するよう求めて、スペイン全国管区裁判所に提訴した。

同管区裁判所は最高裁の法解釈が、EU域内に住む市民の権利を定めたEU基本権憲章と、同憲章に基づいて被用者の具体的な権利を定めたEU労働時間指令に抵触している可能性があるとして、ECJの判断を仰いだ。

ECJは今回の判決で、各被用者の労働時間を記録するルールを雇用主に義務づけないことはEU基本権憲章とEU労働時間指令に違反するとの判断を示した。すべての労働時間を記録しなければ、各被用者が何時間、働いたのか、および何時間、残業したのかを客観的に把握することがでず、許容労働時間の上限と法定の最低休息時間に関する被用者の権利が掘り崩されると指摘。労働時間をすべて記録することはこれらの権利を行使するための前提に当たるとして、加盟国は全労働時間の記録を雇用主に義務づけなければならないと言い渡した。

加盟各国が定める労働時間の記録ルールについては、業務分野の特性や企業規模など、様々な実情を踏まえて作成できるとしている。