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2020/6/24

総合 - ドイツ経済ニュース

緩和後初のロックダウン、NRW州が導入、巨大クラスター発生で

この記事の要約

独西部のノルトライン・ヴェストファーレン(NRW)州政府は23日、新型コロナウイルスの巨大なクラスター(感染者集団)が発生したギュータースロー郡などを対象にロックダウン(都市封鎖)を再導入した。接触・営業規制の緩和後にロ […]

独西部のノルトライン・ヴェストファーレン(NRW)州政府は23日、新型コロナウイルスの巨大なクラスター(感染者集団)が発生したギュータースロー郡などを対象にロックダウン(都市封鎖)を再導入した。接触・営業規制の緩和後にロックダウンが実施されるのはドイツで初めて。36万人が影響を受ける。アーミン・ラシェト州首相はこれまで、市民生活を強く制限するロックダウンの再導入に慎重な姿勢を示してきたが、感染が広い地域に拡散するリスクを踏まえ苦渋の決断を余儀なくされた格好だ。

NRW州ではギュータースロー郡レーダ・ヴィーデンブリュック市にある食肉加工大手テンニースの本社工場で新型コロナのクラスターが発生したことが17日に明らかになった。感染者数は22日までに1,553人に達しており、同工場で働く7,000人は家族とともに7月2日まで隔離される。クラスターの規模は国内最大だ。事態を重くみたギュータースロー郡当局は18日付で郡内のすべての保育施設、学校を閉鎖していた。

州政府は今回、ギュータースロー郡と隣接するヴァーレンドルフ郡を対象にロックダウンを発令した。期間は差し当たり30日まで。テンニース社外の感染者数が大幅に増えなければ月末で解除するものの、そうでない場合は延長する意向だ。

ロックダウンの対象となった地区では公共の場での他人との接触が制限される。また、屋内スポーツや文化イベントの開催が禁止され、フィットネスクラブと映画館、バーも営業禁止となる。外出制限はないものの、ラシェット首相は郡外に出ないよう住民に呼びかけた。郡境では出入コントロールを実施する。

独政府と国内16州の政府はロックダウンの緩和を取り決めた5月初旬の遠隔会議で、住民10万人当たりの感染者数が7日間で計50人を超えた郡と特別市(主に大都市と中都市)では制限措置を再び強化することで合意した。ギュータースロー郡では同数値が263.7人に達しており、NRW州はこの合意を踏まえて今回の措置に踏み切った。

同州では29日から夏休みが始まる。すでにバカンス旅行を予約している当該地区の住民が郡外越境の自粛要請にどの程度、従うかは不明だ。

ただ、これらの住民は観光地によっては受け入れを拒否される可能性がある。独北東部のウーゼドム島では22日、ギュータースロー郡民を含む計14人が新型コロナ危険地域の在住者であることを理由に退去を命じられた。人口10万人当たりの過去7日間の感染者数が50人を超えた地区の住民の入境を禁じたメクレンブルク・フォーポマーン州の政令を受けた措置だ。

テンニースに損賠請求も

屠畜・食肉加工施設では密閉された空間で多くの労働者が働いていることから感染が広がりやすい。東欧諸国からの出稼ぎ労働者は狭い宿舎に共同で寝泊まりしているという事情もあり、ドイツでは5月の時点で複数のクラスターが発生していた。

政府はこれを受けて先月、◇保健・労働当局などによるチェックを強化し労働・衛生・健康基準が遵守されるようにする◇宿舎の最低基準を企業に遵守させるための措置を検討する◇屠畜場で働く者を来年1月以降、正社員に制限し、派遣社員や下請事業者の投入を禁じるッッなどを決めた。だが、労働現場の対応は限られており、感染が拡大しやすい状況は変わっていない。

テンニースで新型コロナの感染が爆発的に拡大する起点となったのは豚の半身を解体する部署だ。解体部署の就労者は低温・高湿度というウイルスの繁殖に適した職場で大きな息をして体力仕事を行うことから、特に感染しやすい状況にあり、同部署では就労者の3分の2が感染した。解体部署から離れた部署では感染者数が比較的、少ない。

社外の感染者数はこれまでのところ24人にとどまっている。このためクラスターは社外にほとんど広がらない可能性があるものの、就労者はギュータースロー郡だけでなく、周辺のヴァーレンドルフ郡、ゾースト郡、ビーレフェルト市、ハム市にも住んでおり、交友などを通してすでに感染が社外に広がっている可能性は排除できない。

州政府は感染経路を遮断するために、当該地域を対象に大規模な感染テストを実施する。また、警察を動員してテンニースの就労者が自主隔離を順守しているかどうかもチェック。順守を拒否する人には強制措置を発動する。ギュータースロー郡ファール市は同社の就労者670人が住む計3本の通りを柵で封鎖した。

ドイツでは新型コロナの新規感染者数がピーク時に比べ大幅に減少している。だが、外国人労働者が劣悪な環境で働く食肉加工場や移民系の住民が多いアパート、一部の教会で大きなクラスターが発生するケースが目立つ。建設業界でも外国人労働者が二段ベッドを並べた狭い宿舎に寝泊まりしており、クラスターがいつ発生してもおかしくない状況だ。

ロックダウンの解除後にドイツで発生した大規模なクラスターには、感染予防策が取られていなかった、あるいは感染リスクを軽視していたという共通点がある。テンニースのケースでは職場と宿舎で感染リスクが高いことが明らかであったにも関わらず、経営者は必要な対策を講じてこなかった。食肉業界では価格競争が激しく、そうした発想は生まれにくいもようだ。ただ、安全よりも利益を優先するそうした姿勢がギュータースロー郡を中心とするクラスターの発生につながったことは否定できない。ラシェット首相は記者会見で、危機の終息後にテンニースへの損害賠償請求を検討する考えを表明した。

テンニースは独食肉市場で20%以上のシェアを持つ業界最大手。感染経路を追跡するために当局が全就労者の名簿を差し出すよう要求したところ、提示を渋るなど非協力的な態度を取ったことから、批判を受けている。