新型コロナウイルスの感染拡大を受けてにわかに広がった在宅勤務などのテレワーク(社外勤務)が一般的な勤務形態のひとつとして定着する公算が高まってきた。ほとんどの企業は感染防止のためには他に選択肢がないという状況の下で事前の準備も善し悪しの判断もなしに導入したものの、実施してみると企業、被用者双方のメリットが大きいことが明らかになってきたためだ。
電機大手の独シーメンスは16日、仕事場所を被用者が自由に選べるモバイル勤務を新型コロナ危機の終了後も標準的な労働モデル(ニューノーマル)として継続する方針を明らかにした。メリットが多いことが明らかになったうえ、従業員も柔軟な勤務体制を求めているためだ。全世界の従業員が平均して週2~3日、勤務場所を自由に決定できるようにしていく。
同社ではこれまでもモバイル勤務が行われてきた。だが、勤務はあくまでも出社が中心であり、在宅勤務などはどちらかというと例外的な取り扱いだった。
3月に入り新型コロナの感染が本格化してくると状況は一転。ミュンヘンにある本社では全従業員に在宅勤務が命じられ、やむを得ない理由と許可がない限り従業員であっても出社できなくなった。
従業員にアンケートを行ったところ、60%が在宅勤務に賛成と回答したことから、同社はテレワークをニューノーマルの中核的な要素へと格上げする。従業員を出社ではなく成果で評価する考えで、ローラント・ブッシュ副社長は「従業員には労働を自分自身で形づくる権限を与え、最高の成果を上げられるようにする」と狙いを語った。シーメンスの雇用者としての評価を高め、有能な人材を獲得・保持しやすくするという計算もある。
この新しい勤務モデルは現時点ですでに、世界の従業員29万人のうち14万人以上に適用できる。同モデルの利用拡大に向けて同社は今後、管理職を対象に研修を実施する。これにより管理職がモバイル勤務利用の妨げにならないようにする狙いがあるとみられる。
出張費を50%削減=アリアンツ
保険大手のアリアンツも勤務体制を抜本的に見直す意向だ。同社は3月、社内業務の9割を在宅勤務で処理する臨時体制をわずか数日で構築した。オリファー・ベーテ社長はロイター通信に、在宅勤務の結果、自分自身の生産性が大幅に向上したと明言。社員の多くもそうだったと述べ、テレワークを積極的に活用していく意向を表明した。これに伴いオフィス面積を長期的に3分の1削減することを視野に入れている。
同様の検討は銀行業界でも始まっている。業界最大手ドイツ銀行のカール・フォン・ローア副頭取は『フランクフルター・アルゲマイネ』紙に、コロナ危機の経験を踏まえ、オフィス面積を削減する考えを明らかにした。フランクフルトにある本店に出社しているいのは現在、行員2,500人のうち800人にとどまる。市中心部は賃貸料が高いことから、在宅勤務を活用することでコストを削減する狙いだ。
貯蓄銀行グループのファンド会社Dekaもフランクフルトのオフィス面積を25%減らす。
自動車大手のBMWでは従業員代表との協定でモバイル勤務が2013年から認められている。時間単位でモバイル勤務を選ぶことも可能だ。ロックダウン期間中の利用者数は約3万8,000人で、昨年通期の3万6,000人とほぼ同水準にとどまったものの、平均利用時間は60%増えた。
新型コロナ危機という非常事態を経験したことで、企業はテレワークをはじめとする多くの分野で新たな知見を獲得している。フラウンホーファー労働経済・組織研究所(IAO)が独人事労務管理協会(DGFP)と共同実施した5月の企業アンケート調査によると、「在宅勤務を増やしても自社にデメリットは生じない」との回答は89%に達した。「出張せずに電話・ビデオ会議で用件を済ませることはできないかを今後はこれまでよりもクリティカルに検討できる」も89%と多い。アリアンツのベーテ社長は出張費を50%圧縮する意向を表明しており、不要な出張を見合わせる動きも定着する可能性がある。