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2020/9/9

総合 - ドイツ経済ニュース

中国依存引き下げ指針を採択、日本やASEANとの関係強化へ

この記事の要約

ドイツ政府は中国への経済的な依存度を引き下げる意向だ。自由、民主主義、市場経済をベースとする冷戦後の国際秩序を強権国家の中国が強力な経済力や軍事力を用いて変容させようとしているほか、世界の覇権をめぐる米中両国の対立が深刻 […]

ドイツ政府は中国への経済的な依存度を引き下げる意向だ。自由、民主主義、市場経済をベースとする冷戦後の国際秩序を強権国家の中国が強力な経済力や軍事力を用いて変容させようとしているほか、世界の覇権をめぐる米中両国の対立が深刻化していることが背景にある。特定の国に強く依存していると、国際社会で自立的な政策を展開しにくくなることから、経済、安全保障、環境、温暖化防止、人権など幅広い分野でインド太平洋の国々や地域協力機構との関係を強化し、中国の比重を相対的に引き下げていく。欧州の自立を目指す欧州連合(EU)と政策を緊密に連動させる。

独政府は2日の閣議で「インド太平洋指針」を採択した。経済の急速な成長を背景に世界での重要性が高まったアメリカ大陸西岸からアフリカ大陸東岸に至る地域での今後の政策の基本方針を定めた重要な文書だ。

米国、中国、日本という3大経済国を抱える同地は現在すでに、世界の国内総生産(GDP)の約40%、人口の50%以上を占めるに至っている。また、世界のメガシティ33カ所のうち20カ所は同地にある。経済のグローバル化を追い風に成長を続けるドイツにとって極めて重要な地域だ。

ドイツ経済はこれまで、特に中国市場の開拓を重視してきた。経済の規模と成長の余地が際立って大きいことが背景にある。

『ハンデルスブラット』紙によると、独企業300万社強の売り上げに占める中国市場の割合は約7%に上る。DAX(ドイツ株価指数)に採用される上場最大手30社に限ると15%と2倍以上で、額は約2,000億ユーロに達する。自動車大手の上半期販売台数に占める同国の割合をみると、フォルクスワーゲン(VW)は41.6%、BMWは34.2%、ダイムラーは33.3%に達しており、中国は最重要市場となっている。半導体大手インフィニオンも売り上げの36.8%(昨年10月~今年6月の9カ月)を同国で獲得した。

VWのヘルベルト・ディース社長は北京の記者会見で、今後は中国が「自動車産業の中心地」になるとして、「フォルクスワーゲンの将来は中国で決まる」と明言した。同国の経済的な重要性は一段と高まる見通しだ。

力による現状変更をけん制

中国なしのドイツ経済は考えられないことから、政府は同国との関係を不必要に悪化させる考えはない。ただ、経済や政治、国際秩序のあり方についての理解を共有できない中国への依存度が高い現状は好ましくないことから、インド太平洋指針では日本やオーストラリア、インド、東南アジア諸国連合(ASEAN)との関係強化方針を打ち出した。

南シナ海に人工島と軍事基地を建設し同海域の領有権の既成事実化を目指す中国と、その阻止を図る米国の対立が先鋭化していることにも大きな注意を払っている。世界で最も重要な通商ルートのひとつである南シナ海で軍事的な緊張が高まれば、グローバルなサプライチーンに大きな支障が出、ドイツ経済を直撃するためだ。ハイコ・マース外相は「国際秩序は強者の法でなく、規則と国際協調」に基づかなければならないと述べ、武力による現状の変更をけん制した。政府は「インド太平洋における規則に基づく秩序の保護と保障に向けた取り組み」に関与する意向を表明しており、ドイツ海軍が米国、英国、フランスに続いて南シナ海に監視船を派遣する可能性が出てきた。

EUの欧州委員会は3日、「重要な原材料」の安定供給を確保するための行動計画を発表した。希少金属や希土類といった重要資源を中国などの第三国に強く依存している現状を改める狙いで、EU域内での資源採掘拡大とリサイクルの強化、アフリカなど産出国との協業強化に取り組む考えだ。ドイツのインド太平洋指針はEUの自立を目指すこうした政策と連動している。

国際社会の自立したプレイヤーに

中国の王毅外相は8月下旬から9月初旬にかけてイタリア、オランダ、ノルウェー、フランス、ドイツの5カ国を訪問した。米国との関係が悪化するなか、欧州との関係を強化し国際的な孤立を打開することが狙いだったが、香港、ウイグル問題がネックとなり、成果を上げることができなかった。中国のけん制を無視して台湾を訪問したチェコのミロシュ・ビストルチル上院議長に対し王外相が「高い代償を支払うことになる」と批判したことについても、マース外相は「EUは外交政策で肩を組む」と明言し、中国の「恫喝」を受ける加盟国チェコに連帯を表明した。

EUのジョセップ・ボレル外務・安全保障政策上級代表(外相)は王外相の欧州訪問中にスペイン外交専門誌への寄稿文で、「中国政府は国際秩序を、中国的なメルクマールを持つ選択的な多国間システムへと変容させようと工作している。そのシステムでは政治的・市民的な権利に対し経済的・社会的な権利が優先される」と指摘。中国が作り出そうとしている国際関係は非対称的なものであり、パートナーとされる国は実際には従属させられることになるとして、EU加盟国に注意を促した。

中国に対するEU、ドイツの不信感は長年の外交関係を通して形成されたものだ。中国は自国中心の米トランプ政権が欧州との関係を悪化させていることを利用してEUを自らの陣営に取り込もうとしているが、EUはすでに米中のどちらにもつかず自立する道を模索し始めた。ドイツのインド太平洋指針には「いかなる国も~冷戦期のように~2つの陣営の間で決断しなければならないという選択肢の前に立たされる、あるいは一方的な従属へと陥るべきでない」との一文が明記されている。