ドイツのアンゲラ・メルケル首相は9日、国内の計11の大都市の市長とテレビ会談し、新型コロナウイルスの感染拡大防止に向けた対策を取り決めた。首都ベルリンなど大都市を中心に感染者数が急増していることを受けたもので、同首相は、パンデミックを制御できるかどうかは人口集中地域の動向にかかっていると強調。今後数日から数週間が山場になると危機感を示した。
ドイツでは新型コロナの新規感染者数が急速に増え始めており、8日には前日の2,828人から4,058人へと43%増加。9日は4,516人、10日は4,721人と一段と拡大した。秋に入って気温が下がり室内の換気が悪くなるなど、感染が広がりやすい状況になっている。
感染者数は人口密度が高い大都市で特に増えている。ベルリン、フランクフルト、ブレーメン、デュッセルドルフ、ケルン、シュツットガルト、ミュンヘンなど主要な大都市は13日現在ほぼ軒並み、人口10万人当たりの直近7日間の新規感染者数が、同国が危険水準と定める50人超に達している。
今回の会議はこれを受けて開催された。会議では感染経路を追跡・遮断できるかどうかが、パンデミック制御のポイントになるという点で意見が一致した。メルケル首相は会議後の記者会見で、感染経路の追跡能力が都市によってはすでに限界に達していることを指摘。限界を超えるとフランスなど周辺諸国のようにウイルスの拡大を制御できなくなると警戒を促した。
会議ではそうした事態を防ぐために感染者数が増加した都市への支援策が取り決められた。感染者数が50人を超えると追跡調査が難しくなることを前提としている。
合意内容は、感染者数が35人を超えた都市については◇市当局の要請を受けてロベルト・コッホ研究所(RKI)と国防軍の専門家を派遣し、助言などの支援を行う◇市は保健部門以外の職員や学生、ボランティアに研修を施したうえで、感染経路の追跡に投入する◇感染経路追跡能力が限界に達した場合、ないし限界に達することが見込まれる場合、市は国と州に支援を要請する――というもの。
感染者数が50人を超えた都市については◇マスク着用義務を拡大する◇公的な場所での接触制限を導入する◇飲食店の営業時間やアルコール販売を制限する◇イベントへの参加者数を一段と制限する◇コロナ規制の順守を徹底させるために市公安当局(Ordungsamt)の職員をパトロールに投入し、必要ならば連邦警察と州警察が支援する◇病院や老人ホーム、介護施設が定期的に行うコロナ検査の費用を国(連邦)が負担する――を取り決めた。
50人を超えた都市で感染拡大防止の追加策の効果が10日以内に現れず、感染者数が増え続けた場合は、さらに踏み込んだ措置を導入することになる。
新規感染1万人突破の恐れも
新たに感染する人は若年層が多い。このため死亡者と重篤化する患者は少なく、13日の発表では新規の死亡者が13人にとどまった。
集中治療ベッドで治療を受けている新型コロナ患者は13日昼現在618人。国内の集中治療ベッドは約9,000床が空いているうえ、予備が1万2,000床あることから、現時点で医療崩壊の恐れはない。また、医療機関の集中治療ベッドはすべてオンラインで登録されていることから、重篤患者が今後、大幅に増えて集中治療ベッドが不足する地域が出てきても、キャパシティにゆとりのある他の地域の病院に患者を速やかに輸送できる状況にある。イエン・シュパーン保健相はコロナの感染予防や重篤患者治療に関する知見が、感染の第1波が襲った今春に比べ大きく進展していることなどを踏まえ、「医療体制はパンデミックに万全に対応できる」と自信を示した。ただ、感染拡大のスピードに感染ルートの追跡が追い付かなくなると重篤患者が大幅に増え、医療崩壊につながる恐れがある。RKIのロタール・ヴィーラー所長は8日、1日当たりの新規感染者数が1万人を突破する可能性を排除できないと危機感を表明した。