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2020/11/11

総合 - ドイツ経済ニュース

米大統領選に独・欧州が安堵、対外経済政策でトランプ路線継承の恐れも

この記事の要約

民主党のジョー・バイデン候補が米国の次期大統領に選出されたことを受け、ドイツと欧州の政界には安堵の声が広がっている。当確がメディアで報道されると欧州各国の主要政治家は祝福のメッセージを次々と発表。米国との関係修復に強い意 […]

民主党のジョー・バイデン候補が米国の次期大統領に選出されたことを受け、ドイツと欧州の政界には安堵の声が広がっている。当確がメディアで報道されると欧州各国の主要政治家は祝福のメッセージを次々と発表。米国との関係修復に強い意欲を示した。ドイツのフランクヴァルター・シュタインマイヤー大統領(元外相)は全国紙『フランクフルター・アルゲマイネ』への寄稿文で、トランプ政権下の4年間で「多くが損傷されたがまだ破壊されてはいない」と述べ、協調体制の立て直しは可能だとの見方を示した。ただ、米国自体が大きな課題を抱えゆとりのない状態にあることから、バイデン新政権は前政権同様、欧州に対し厳しい要求を突きつけるとみられ、蜜月関係に戻る可能性は期待薄だ。

アンゲラ・メルケル独首相はバイデン氏当確の報道がなされた7日、「現在の大きな課題を克服しようとするのであれば、大西洋をまたいだ我々の友好関係は必要不可欠だ」との声明を発表。フランスのエマニュエル・マクロン大統領はバイデン次期大統領とハリス次期副大統領にツイッターで「一緒に働きましょう」とメッセージを送った。欧州連合(EU)のウルズラ・フォンデアライエン委員長も「できるだけ早く会談する」ことに意欲を示した。

「米国第一」を掲げるトランプ大統領が政権を握った2017年以降、欧米関係は急速に悪化した。同大統領は就任直後、国内雇用を創出するため、輸入品に高額関税を課す意向を表明。主要な標的となった独自動車メーカーは現地投資の確約など譲歩を余儀なくされた。EUと米の18年のトップ会談で自動車を除く工業製品の関税撤廃や、米国産の液化天然ガス(LNG)・大豆の輸入拡大に向けて交渉を開始することで合意したことから、通商戦争はひとまず回避されたものの、問題は依然として解決していない。

北大西洋条約機構(NATO)内の齟齬も大きい。NATOは14年、各加盟国の国防費を24年までにGDP比2%以上に引き上げることを取り決めた。ドイツは19年時点で1.36%にとどまっており、目標を達成できない可能性が高い。トランプ大統領は経済的に順調なドイツが安全保障面で「ただ乗り」していることを批判しており、7月には米駐留軍の縮小計画を発表した。NATO加盟国全体をみても3分の2が2%を下回っている。

地球温暖化をめぐってはこれを事実と認めないトランプ政権と、温暖化防止の先頭に立つ欧州の溝が決定的に深まった。

メルケル首相は2%義務達成に前向き

バイデン次期大統領は国際協調路線へと米国の舵を切る直す方針で、温暖化対策の国際的な枠組みである「パリ協定」に復帰する意向を表明した。次期大統領は温暖化対策に前向きなことからこの面では欧米の協調が復活する見通しだ。

国防費2%の取り決めに関してはドイツに対する米国の厳しい姿勢が変わらないとみられる。独国防費への批判はメルケル首相と親しかったオバマ前大統領の時代から行われているためだ。メルケル首相はこれを念頭に9日の記者会見で、「我々ドイツ人と欧州人は(米国との)21世紀のこのパートナーシップで自らの責任をより多く引き受けなければならないことを知っている」と明言した。ただ、ドイツ国内では2%目標に対する批判が野党だけでなく与党内にも根強いことから、達成できるかどうかは不透明だ。

安全保障絡みではロシア産天然ガスを海底パイプライン経由でドイツに直接、輸送する「ノルドストリーム2」の建設をめぐっても独米の対立は続くとみられる。同パイプラインの建設に関与する企業への米国の制裁は民主党の主導で可決・実施された経緯があるためだ。

経済面でも欧州と米国の関係改善は容易でない。バイデン次期大統領は大きな亀裂が走る米国社会の融和を最重要課題に位置付けているためだ。

社会分断の背景には貧困層の増加と格差の拡大がある。貧困層を減らし中間層を再び拡大するためには富の再配分だけでなく国富の拡大が必要であり、次期大統領は対外経済交渉で厳しい姿勢を取る可能性が高い。ドイツ経済研究所(DIW)のマルツェル・フラッチャー所長は週刊紙『ツァイト』への寄稿文で、「彼(バイデン)の外交政策は(米国社会の融和という)この内政上の思惑に従属するだろう。ジョー・バイデンは国を一つにまとめるためにドナルド・トランプの外交、特に経済路線を継承するかもしれない。おそらく前任者(トランプ)よりも巧みかつ上首尾に行うだろう」との見方を示した。