東南アジア諸国連合(ASEAN)10カ国と日中韓豪ニュージーランドの5カ国が15日に締結した自由貿易協定「東アジア地域包括的経済連携(RCEP)」に対しドイツの政財界が危機感を抱いている。アジア太平洋市場でドイツ企業の立場がこれまでより不利になるうえ、通商の多様化を通して中国依存の是正を目指す欧州連合(EU)の戦略にも影を落とすためだ。独卸売・貿易業者連盟(BGA)のアントン・ベルナー会長はロイター通信に、「中国企業がRCEPに加盟する他の14カ国の市場にアクセスしやすくなることで、ドイツ企業の販売の可能性は相対的に低下する」と指摘。「この協定はドイツにとって悪いニュースだ」と明言した。
ドイツ政府やEUは中国への経済的な依存度を引き下げる方針を打ち出している。自由、民主主義、市場経済をベースとする冷戦後の国際秩序を強権国家の中国が強力な経済力や軍事力を用いて変容させようとしているほか、世界の覇権をめぐる米中両国の対立が深刻化していることが背景にある。特定の国に強く依存していると、国際社会で自立的な政策を展開しにくくなることから、経済、安全保障、環境、温暖化防止、人権など幅広い分野でインド太平洋の国々や地域協力機構との関係を強化し、中国の比重を相対的に引き下げていく考えだ。
だが、アジア太平洋の15カ国がRCEPを締結したことで、欧州企業が東南アジア事業などを強化する際のハードルは相対的に高まった。ASEANとの関係強化を目指すEUにとってはマイナス材料だ。
ベルナー会長はまた、自由貿易協定(FTA)締結の条件としてEUが交渉相手に多大な要求を突きつけていることも問題視。ブラジルの熱帯林乱伐に対するEUの批判が原因で、南米南部共同市場(メルコスール)とのFTA交渉がとん挫しかねないことなどを批判した。
与党キリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)のユルゲン・ハルト連邦議会議員(外交政策担当)も「アジアのこの新協定は欧州にとって起床ラッパだ」と指摘。FTA交渉を先送りし続けると、「他の国が標準を作りだし、欧州は後塵を拝することになる」と警鐘を鳴らした。米国の次期大統領との交渉では通商協定を最優先すべきだと訴えている。