ドイツのオーラフ・ショルツ首相は22日、ロシア産天然ガスの輸送パイプライン「ノルドストリーム2」の認可手続きを凍結すると発表した。ウクライナ東部の新ロシア派占領地域をロシアのウラジーミル・プーチン大統領が独立国家として承認すると決定したことを受けた措置で、同首相は「重大な国際法違反だ」と強く批判。ロシアに打撃をもたらす措置を欧州連合(EU)の制裁発動前に打ち出した。
ノルドストリーム2はバルト海経由でロシアとドイツ北部を結ぶ全長1,200キロメートルのパイプライン。2011年に開通した「ノルドストリーム1」に並行する形で敷設され、昨年に完成した。
ノルドストリーム2に対してはドイツ連邦ネットワーク庁がすでに昨年11月の時点で認可手続きを凍結している。これは同パイプラインの運営会社ノルドストリーム2(NS2AG)が提出した書類を検討した結果、手続きの要件を満たしていないことが判明したためで、この要件が満たされれば手続きが再開されることになっていた。
ショルツ首相が今回、打ち出した方針は、この認可要件が満たされたとしてもノルドストリーム2の稼働開始を認めないというものだ。首相は記者会見で、新ロシア派占領地域の独立を承認したプーチン大統領の決定により「状況は根本的に変わった」として、ノルドストリーム2に対する評価の見直しを経済省に要請したことを明らかにした。経済省は状況変化を踏まえてドイツのエネルギー安全保障に関する判断を改めることになる。この措置は政府による同パイプラインの認可手続き凍結に必要な行政手続きで、首相は「認可がなければノルドストリーム2は稼働を開始できない」と明言した。
ショルツ首相はウクライナ危機に絡んでこれまで、控えめな表現を繰り返してきた。ロシアを刺激し、外交的な解決の道が狭まることを避けるためで、制裁にノルドストリーム2の不承認が含まれるということも、同パイプライン名を名指しせずに表明してきた。
だが今回の記者会見では、プーチン大統領はウクライナ問題の解決に向けた2015年のミンスク協定を破っただけでなく、「諸国民の平和的共存をうたう国連憲章の原則も破った」と明言。同大統領の決定を、国連憲章に定められた国土の一体性と国家主権の保持、武力による威嚇または武力行使の放棄、平和的な紛争解決の義務に違反するものだと弾劾した。
その一方で、第2次世界大戦の終了後およそ80年ぶりに欧州で再び戦争勃発の危機が高まっていることを踏まえ、事態をさらに悪化させず「破局を回避することは我々の義務だ」とも指摘。外交を通して問題解決を目指す意向を示した。ウクライナが強く要請する武器の供与には拒否の姿勢を保っており、「わが国が行うことは、ウクライナの経済的弾力性を強めることだ」と述べた。
EUは露国債の取引禁止など検討
EUはプーチン大統領の今回の決定を受け、ロシアに対する新たな制裁を近く発動する意向だ。制裁案をもとにdpa通信が報じたところによると、◇ロシア国債の取引を禁止し、資金調達を難しくする◇新ロシア派の「ドネツク人民共和国」「ルガンスク人民共和国」承認案を支持したロシア議会の議員およそ350人や企業、組織を制裁リストに載せる◇制裁リストの人物、企業、組織がEU域内に持つすべての資産を凍結する◇制裁対象者のEU入域、およびこれらの人との取引の禁止◇ウクライナ東部地域をEUとウクライナの自由貿易協定の適用外とする――などが盛り込まれている。制裁対象にはウクライナ東部で事業を行う銀行も含まれる。
制裁内容を協議する関係者によると、これらの制裁措置はあくまで第一弾で、ロシアがウクライナ全土に侵攻した場合は、さらなる措置を発動する。ロシアのエネルギー部門への制裁やハイテク製品の対露輸出禁止が候補に挙がっているという。プーチン大統領が制裁リストに載ることは現時点でないもようだ。