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2022/6/15

総合 - ドイツ経済ニュース

内燃機関車禁止を独自工会が批判、サプライヤーで雇用の大量喪失も

この記事の要約

ガソリン車など内燃機関車の新車販売を2035年以降、事実上禁止することを柱とする規制案が欧州連合(EU)の欧州議会で8日可決されたことが、ドイツの自動車業界で波紋を呼んでいる。政府はEUの今後の法制化手続きで同案を支持す […]

ガソリン車など内燃機関車の新車販売を2035年以降、事実上禁止することを柱とする規制案が欧州連合(EU)の欧州議会で8日可決されたことが、ドイツの自動車業界で波紋を呼んでいる。政府はEUの今後の法制化手続きで同案を支持するとみられるものの、独自動車工業会(VDA)は「市民、市場、イノベーションならびに近代的な技術に敵対する決議だ」(ヒルデガルド・ミュラー会長)と批判。規制案の修正を強く要請した。内燃機関車が全面的に禁止されると、エンジン・排気系のサプライヤーが大きな打撃を受け、雇用が大量に失われかねないとの懸念が背景にある。

EUは温室効果ガスの排出量が差し引きでゼロになる炭素中立を50年までに実現することを目指している。欧州議会で今回、可決された規則案をその実現に向けた措置の1つで、乗用車と小型商用車(バン)の二酸化炭素(CO2)排出基準を厳格化するものだ。具体的には、走行1キロメートル当たりの排出許容上限を21年(平均95グラム)比で25年までに15%、30年までに55%削減。35年には100%引き下げ、新車のCO2排出自体を禁止する。

これに対しては、メーカー各社ないしプールを組む企業連合に35年以降も平均9.5グラムの排出許容枠を与えるよう求める対案もあったが、通らなかった。

35年以降の新車のCO2排出を認めない考えの背景には、34年までに販売される新車は40年代終わりまで利用されるという計算がある。ガソリン車などの新車販売を早い時期に禁止しなければ、50年までに炭素中立を実現するという目標を達成できなくなる。

欧州議会では、再生可能エネルギー由来のグリーン水素を用いて製造する炭素中立の合成燃料「eフューエル」の取り扱いも大きな論点となった。eフューエルが実用化されれば、既存の内燃機関車がCO2を排出しなくなるうえ、35年以降も内燃機関車を販売できることから、VDAなどは強い期待をかけていた。ドイツのフォルカー・ヴィッシング交通相(自由民主党=FDP)もeフューエルしか給油できないことを証明できる車両であれば2035年以降もエンジン搭載車を新車登録できるようにすべきだ」と訴えていた。

だが、欧州議会はeフューエルの給油自体を認めない規制案を可決した。製造に多大のエネルギーを必要とすることがネックとなった。水を再生エネ電力で電気分解して製造した水素にCO2を反応させて合成するeフューエルはエネルギーロスが大きい。コストも割高だ。

ピストン大手マーレは事業転換に苦慮

ハイブリッド車(HV)を含む内燃機関車を35年以降も製造・販売できれば、車両電動化の波に対応するための時間を稼げることから、VDAはeフューエルに大きな期待をかけていた。欧州議会の今回の決議はエンジン部品などを製造するサプライヤーの多くを窮地に追い込むもので、VDAの危機感は大きい。

独サプライヤー4位のマーレはエンジン用ピストンの有力メーカー。業界の構造転換を受け今後の成長につながる新たな事業分野を開拓しているものの、利益を稼ぐ力は弱い。経営不振を背景に過去3年間で3人の社長が退任した。現在は社長が不在だ。資金力も経営資源も弱い中小のサプライヤーが構造転換に対応するのはマーレ以上に難しく、今後は経営破たんする企業が増える懸念がある。

一方、自動車メーカーは車両電動化に適用できる見通しだ。フォルクスワーゲン(VW)とメルセデスベンツは欧州議会の決議への支持を表明した。メルセデスは、条件が整う市場では販売車両を30年までに電気自動車(BEV)に一本化する。VWも、内燃機関車の販売を35年までに停止するのは「野心的だが実現可能な目標だ」としている。VWの高級車子会社アウディは26年以降、ガソリン・ディーゼル車の新モデルを発表しない。BMWは特定の技術に肩入れせずすべての動力源を平等に取り扱うべきだとして内燃機関車の禁止に批判的な立場を取っているが、BEVモデルの拡充を着実に進めている。

今回の規制案は、今秋に行われる欧州議会と加盟国、欧州委員会の交渉で最終的に法制化される。サプライヤーが集積するチェコ、スロバキア、ハンガリーなどが反対しているが、同案が成立するのは確実と目されている。ドイツの担当大臣であるシュテフィ・レムケ環境相(緑の党)はすでに賛意を表明済みだ。