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2022/6/22

総合 - ドイツ経済ニュース

天然ガス節約モードに、ロシア産供給の大幅減を受けて

この記事の要約

ドイツが天然ガス消費量の大規模な削減に踏み切る。ロシアが欧州向けの供給を大幅に削減したためで、発電と製造業での使用を可能な限り抑制。暖房シーズン前に国内の備蓄を確保し、ガス需要が大幅に増える冬季を乗り切れるようにする。ロ […]

ドイツが天然ガス消費量の大規模な削減に踏み切る。ロシアが欧州向けの供給を大幅に削減したためで、発電と製造業での使用を可能な限り抑制。暖房シーズン前に国内の備蓄を確保し、ガス需要が大幅に増える冬季を乗り切れるようにする。

ロシア国営天然ガス会社ガスプロムは15日、パイプライン「ノルドストリーム1」を通した欧州向けのガス供給量を16日から1日当たり最大6,700万立方メートルに制限することを明らかにした。同社は容量(1億6,700万立方メートル)の60%に当たる1億立方メートルしか輸送できないと14日に発表したばかり。その翌日にさらに20%の引き下げを表明したことから、ドイツのロベルト・ハーベック経済・気候相は「政治的な決定だ」と批判した。

同社は供給削減の理由を14日、独シーメンス・エナジーに委託したガスコンプレッサー部品の修理が遅れているためと説明した。15日の説明も技術的な問題を理由としている。

シーメンス・エナジーは14日メディアの問い合わせに、ガスプロムからオーバーホールを請け負ったコンプレッサー用タービンが現在、カナダにあることを明らかにしたうえで、カナダの対露制裁を受けて同タービンをロシアに輸送できなくなっていると回答した。

一方、ハーベック氏は15日、問題となっているコンプレッサーのメンテナンスは本来、秋に始まるとする、独政府が把握した情報を明らかにした。メンテナンスの時期を大幅に前倒しした背景には政治的な意図があるというのが同氏の見方だ。

ロシアのウラジーミル・チゾフ欧州連合(EU)常駐代表(代表部大使)は16日、ノルドストリーム1のメンテナンスがさらに遅れれば、パイプライン輸送の停止につながる可能性があると指摘したうえで、「ドイツにとっては破局になると思う」と露RIAノーボスチ通信に語った。

ドイツ国内のガス供給には現時点で支障が出ていない。ただ、冬季には暖房用の需要が急増することから、政府はロシアからの供給が止まっても対応できる体制を構築する意向だ。すでに法改正を通して貯蔵事業者に備蓄を義務付けた。貯蔵施設に対し暖房シーズンが始まる10月1日時点で毎年、容量の80%以上、12月1日時点で90%以上の貯蔵が義務付けられている。冬の暖房需要で貯蔵量が減る2月1日時点でも40%ラインの維持しなければならない。

ガス貯蔵量は現時点で57%。ノルドストリーム1経由の供給が大幅に減ると、十分な蓄えがない状態で暖房シーズンに突入する懸念がある。ハーベック氏は「状況は深刻だ」と明言した。

製造業の余地は小

ドイツには欧州連合(EU)の「天然ガスの安定供給確保に関する規則」に基づく天然ガス供給の警戒システムがある。同システムは3段階からなり、第1段階の「早期警戒」は3月末に発令された。第3段階の「緊急」を発令した場合は、国が市場に介入し、配給制を導入。供給は一般消費者や病院向けが優先され、製造業などは後回しにされる。

政府は第3段階の発令を可能な限り回避したい考えで、ハーベック氏は19日、国の市場介入なしに電力と製造部門で天然ガスの使用量を減らす政策案を打ち出した。電力では予備電源として稼働停止した石炭発電を2024年3月末までの時限措置として再び利用する。これにより天然ガス発電の経済的なメリットをなくし、同発電の自発的な見合わせを誘導する。国内発電に占める天然ガスの割合は13%と比較的少ないため、石炭での置き替えは可能とみられる。

製造業でのガス使用低減に向けては、自発的に使用を減らしたメーカーに報奨金を支給する。各社の自発性に委ねられることから、経済界は支持の意向を示している。

ただ、製造業で天然ガスを他のエネルギー源に置き替える余地は小さいもようだ。鉄鋼業界団体シュタールのハンスユルゲン・ケルクホッフ会長は「鉄鋼生産プロセスで天然ガスを短期的に代替することはほとんど不可能だ」と明言した。製紙やガラスなど他のエネルギー集約型業界も事情は同じだ。化学最大手BASFのルートヴィヒスハーフェン本社工場は、天然ガスの供給量が最大需要の50%未満になると操業停止に追い込まれる。

国内の天然ガス消費に占める大手メーカーの割合は約35%に上る。報奨金を通してこの比率をどの程度、引き下げられるかは不明だ。ドイツの備蓄比率が100%に達した場合、国外からの供給が完全に途絶えても国内需要を約2.5カ月、賄うことができる。