自動車大手の独フォルクスワーゲン(VW)グループは22日、ヘルベルト・ディース社長(63)の退任を発表した。従業員との軋轢をたびたび引き起こしてきたうえ、CASE時代のカギを握る車載OSの開発が混迷しグループ全体に大きなしわ寄せが出ていることから、実質的に解任された格好だ。メディア報道によると、監査役会では従業員代表の役員だけでなく、資本側の役員も全員、更迭を支持したという。後任には子会社ポルシェのオリファー・ブルーメ社長(54)が9月1日付けで就任する。
ディース氏はマティアス・ミュラー前社長の更迭を受け、2018年4月にVWグループの社長に就任した。ディーゼル車排ガス不正問題の余波が残るなかで、車両の電動化方針を精力的に推進。収益力の強化にも成功した。
だが、効率や利益率の向上に徹底して取り組む姿勢は従業員の反発を呼び、これまでに数度、更迭論議が起きていた。それでもVWの過半数株を握るポルシェ家とピエヒ家が手腕を高く評価し支持し続けていたことから、これまでは地位を維持できた。
今回はその両家も更迭を支持したもようだ。背景には、車載OSで先行する米テスラを追撃するために立ち上げた戦略的に重要なソフトウエア子会社カリアドで開発が遅々として進まないことがある。ディース氏は問題解決に向け自らカリアドの立て直しに乗り出したが、成果が出ず新モデル開発に支障が出ていることから、資本側の監査役からも見切りをつけられた格好だ。
ブルーメ氏は1994年、VWの高級車子会社アウディに入社した。その後、スペイン子会社セアト、VWブランドでキャリアを積み、13年にポルシェの取締役に就任。15年にはポルシェの社長に昇格した。外部から採用されたディース氏と異なり、グループの事情に精通していることから、従業員とトラブルを起こすリスクは低いと目されている。次期社長への指名を受けて発表した声明では、「私にとっては人間が常に中心にある」と述べ、チームスピリットを重視する意向を表明。従業員の頭越しに戦略を打ち出したディース氏との違いをほのめかせた。
VWは他の企業に比べ従業員代表の影響力が強い。大株主として監査役会に役員を派遣する地元ニーダーザクセン州政府が雇用の維持を重視しているためだ。社長には複雑に入り組んだ利害を調整する能力が求められる。
監査役会ではアルノ・アントリッツ取締役(財務担当)が最高執行責任者(COO)を兼任することも決議した。ブルーメ次期社長は新規株式公開(IPO)を控えるポルシェの社長にとどまり、多くの業務を抱えることになるため、アントリッツ氏はCOOとしてサポートする。