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2022/8/10

総合 - ドイツ経済ニュース

ガス調達コスト転嫁政令が施行、備蓄率73%弱に

この記事の要約

天然ガスの供給不足懸念とエネルギー価格高騰への対策が政財界で進められている。政府は調達コストの膨張で財務が悪化しているガス輸入会社の経営破たんを回避するための政令案を作成。企業は天然ガスに代わるエネルギー源の確保や省エネ […]

天然ガスの供給不足懸念とエネルギー価格高騰への対策が政財界で進められている。政府は調達コストの膨張で財務が悪化しているガス輸入会社の経営破たんを回避するための政令案を作成。企業は天然ガスに代わるエネルギー源の確保や省エネの可能性を模索している。一方、消費者の間には冬季にガス暖房を使用できなくなる懸念から温風器を購入する動きが広がっており、ピーク時の電力需要が急増して大規模な停電が起こる心配が出てきた。

ロシアはバルト海経由のガス管「ノルドストリーム1(NS1)」の供給量を6月中旬に容量の40%へと引き下げた。7月11日にはメンテナンスを理由に輸送を全面停止。21日に再開したものの、供給量はメンテナンス前と同じ40%にとどめ、27日からは同20%へと引き下げた。

ドイツ政府はこれを踏まえ、天然ガスの備蓄義務を強化した。毎年9月1日時点で75%、10月1日時点で85%、11月1日時点で95%の確保を義務付ける。連邦ネットワーク庁のデータによると、備蓄率は7日時点で72.64%に達した。同率は5月1日が35.5%、6月1日が49.5%、7月1日が61.5%と上昇し続けており、9月1日までに75%を達成できる可能性は高い。

ロシアからの供給が大幅に減ったにもかかわらず備蓄が増えているのは、暖房シーズンが始まっていないほか、同国以外からの調達を増やしているためだ。ただ、輸入会社は長期契約に基づき低価格で購入できるロシア産と異なり割高なスポット、先物市場での調達へと切り替えたためコストが急膨張。一定期間は川下に転嫁できないことから財務が急速に悪化している。

政府はこれに対処するため4日、7月に施行された改正エネルギー安定確保法(EnSiG)に基づく政令案を閣議決定し、9日付で施行した。輸入会社は調達先をロシア以外に切り替えたことで発生したコストの90%を10月1日から川下に迅速転嫁できる。期間24年3月末までとなっている。

調達コストの転嫁は、ガス料金に上乗せされる分担金を通してすべての需要家から平等に徴収される。分担金の額は未定。ロベルト・ハーベック経済・気候相は先ごろ、1キロワット時(kWh)当たり1.5~5セントに上る見通しを明らかにした。

インフレの高進の影響と相まって家計が強く圧迫されることから、政府は新たな負担軽減策を実施する方向だ。クリスティアン・リントナー財務相は9日、2023年に100億ユーロ、24年に170億ユーロ規模の所得減税を検討していることを明らかにした。独商工会議所連合系(DIHK)は消費者の購買力低下を踏まえ、今年初にさかのぼって減税を行うよう要請している。

燃料を石油などに転換

天然ガスの使用抑制に向けた企業の取り組みでは化学メーカーの動きが目立つ。ガス依存度が特に高く、供給量が大幅に減ると操業停止に追い込まれる懸念があるためだ。特殊化学大手エボニックは天然ガス使用量の最大40%を石油、液化石油ガス(LPG)へと切り替える。

スイス企業クラリアントは独工場への天然ガス供給量が30%減少した場合に備えた緊急計画を策定した。蒸気ボイラー用の燃料を石油へと切り替えるほか、ドイツ以外の欧州工場を活用して生産を維持する。

エネルギーコストが膨らんでいることから、暖房費を抑制する動きも活発だ。商用車大手ダイムラー・トラックは工場とオフィスの室温を従来よりも2度、引き下げる。法定の最低室温は順守する。ハノーバー再保険はホームオフィスを活用し、個々のオフィスビルを閉鎖することを検討している。

電気暖房は不経済

ホームセンターなどではこのところ、温風器など電気暖房の販売が急速に伸びている。国内世帯の半数はガス暖房を使用しており、代替暖房としてにわかに注目を集めているためだ。消費者アンケート調査ではすでに購入した人が10%、購入を検討している人が30%に上った。

専門家はこの動向を懸念している。厳寒期などに電気暖房の使用が急増すると、停電発生のリスクが大幅に高まるためだ。長期広域停電(ブラックアウト)の可能性も排除できない。これらの暖房はヒートポンプなどのスマートな暖房器具と異なり、送電網事業者が外部からの操作でスイッチを切ることができないため、復旧して送電を再開しても需要過多で再び停電が起こりかねない。ドイツをはじめ欧州では電力の需給調整に適した天然ガス発電が節約のため抑制されていることから、停電は例年よりも発生しやすいという事情もある。

デメリットは家計にとっても大きい。費用対効果が低いためだ。専門家によると、出力2,000ワットの温風器の消費電力は1時間当たり2kWhに上る。現在の電力価格(1kWh=37セント)をもとに計算すると、1日に12時間使用した場合の料金は約8.8ユーロで、月当たり264ユーロに達する。ガス暖房を使った方がはるかに安いという。