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2022/8/24

総合 - ドイツ経済ニュース

ガス分担金1kWh2.4セントに、総額340億ユーロ

この記事の要約

ドイツ政府は15日、天然ガス調達コストの高騰で財務が悪化しているエネルギー輸入会社を支援するための分担金を1キロワット時(kWh)当たり2.419セントに設定することを明らかにした。同分担金は需要家である企業や一般世帯が […]

ドイツ政府は15日、天然ガス調達コストの高騰で財務が悪化しているエネルギー輸入会社を支援するための分担金を1キロワット時(kWh)当たり2.419セントに設定することを明らかにした。同分担金は需要家である企業や一般世帯が負担することから、物価高騰の加速や消費減退など経済への悪影響が予想される。政府は新たな支援策を実施し、しわ寄せを可能な限り抑制する意向だ。

ロシアは6月以降、欧州向けの天然ガス供給を大幅に削減している。この結果、同国産への依存度が高いドイツの輸入会社は割高なスポット市場などでの調達を余儀なくされている。調達コストの増加分は一定期間、川下に転嫁できないことから、ロシア産への依存度が特に高い輸入最大手のユニパーは財務が急速に悪化。政府に支援を申請した。資金繰りが厳しい輸入会社は他にもある。

これらの企業が経営破たんすると国内のガス安定供給を保てなくなり、経済と市民生活に深刻な影響が出ることから、政府は今月初旬、改正エネルギー安定確保法(EnSiG)に基づく政令を施行。調達先をロシア以外に切り替えたことで発生したコストの90%を輸入会社が10月1日から川下に迅速転嫁できるようにした。期間は24年3月末まで。

分担金の額は国内のガスパイプライン運営会社が出資するトレーディング・ハブ・ヨーロッパ(THE)が算出。連邦ネットワーク庁の監査を受けて正式決定した。期間内の分担金の総額は340億ユーロに上る。

計12社が分担金を受給できる。各社の受給可能額は明らかにされていないが、ユニパーが全体の半分以上を占めるもようだ。エネルギー大手RWEは受給権があるものの、業績が好調なことから行使しない意向を表明した。エネルギー価格の急騰で巨額利益を計上する企業に超過利潤税を課すべきだとの議論が浮上していることから、受給を見合わせることで批判を回避する狙い。

軽減税率適用へ

ガスの需要家は早ければ11月に受け取る請求書から分担金を負担することになる。年消費量2万kWhの標準世帯(4人)では料金が年およそ484ユーロ、同5,000kWhの単身世帯では121ユーロ増えることになる。これには税率17%の付加価値税(VAT)が含まれておらず、税込みベースではそれぞれ576ユーロ、144ユーロに膨らむ。

分担金には欧州連合(EU)法の規定に基づきVATが課されなければならない。だが、VAT課税を行うと高インフレに苦しむ世帯と企業の負担が一段と増えることから、ドイツ政府はそうした事態を回避したい考えだ。オーラフ・ショルツ首相は18日、分担金を含むガス料金全体に7%の軽減税率を適用することで対応する意向を表明した。

ガス料金はすでに大幅に高騰している。価格比較サイト「チェック24」によると、標準世帯では7月時点で平均3,415ユーロ(年額ベース)に達し、前年同月(1,301ユーロ)の2.6倍に拡大した。これに分担金576ユーロが上乗せされると、3,991ユーロに膨らむことになる。

エネルギー企業の間では分担金とは別にガス料金本体を大幅に値上げする動きが活発化している。例えばフランクフルトの地域公益会社マイノバは17日、ガス料金を10月1日付で現在の1kWh当たり11.30セントから15.44セントへと37%引き上げることを明らかにした。これには2.4セントの分担金が含まれていない。消費量2万kWhの標準世帯では料金が年828ユーロ増えることになる。分担金も合わせると負担増加幅は1,404ユーロに達する計算だ。

購買力80億ユーロ低下

キール世界経済研究所(IfW)のシュテファン・コート副所長によると、分担金導入の影響で国内世帯の購買力は来年、およそ80億ユーロ減少する見通し。購買力は高インフレの影響でも大きく低下することから、個人消費の大幅な冷え込みは避けられない。すでに過去最低となっている消費者信頼感指数は一段と落ち込みそうだ。

企業もエネルギー集約型メーカーを中心に分担金導入の影響を受ける。独化学工業会(VCI)は同業界の負担額が30億ユーロを超えるとの見方を示した。経済界のシンクタンクであるIWドイツ経済研究所は製造業の負担総額を約57億ユーロと計算している。

分担金の額は3カ月に1度、見直されることになっている。額が引き上げられれば企業と世帯の負担は膨らむことになる。

エネルギーの価格は石炭、石油、電力でも高騰している。消費者の負担軽減策として6月に時限導入された自動車燃料税引き下げと9ユーロ定期券は8月末で終了することから、9月以降はインフレ率が上昇に転じる可能性が高い。エコノミストの間には7月の7.5%(前年同月比)から10%超に高まるとの見方もある。

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