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2022/9/7

総合 - ドイツ経済ニュース

エネ高騰の新たな負担軽減策で与党合意、電力取引での超過利潤を制限へ

この記事の要約

独与党3党は4日、エネルギー価格高騰の直撃を受ける市民、企業の負担軽減策を取り決めた。軽減策の第3弾となる今回の合意は総額650億ユーロ(9兆円強)超で、第1弾と2弾の合計(300億ユーロ)の2倍以上に上る。天然ガスと電 […]

独与党3党は4日、エネルギー価格高騰の直撃を受ける市民、企業の負担軽減策を取り決めた。軽減策の第3弾となる今回の合意は総額650億ユーロ(9兆円強)超で、第1弾と2弾の合計(300億ユーロ)の2倍以上に上る。天然ガスと電力価格が一段と上昇し、これまでの対策では支援が足りず市民生活と経済に深刻な影響が出かねないことから、巨額の追加支援に踏み切る。

欧州天然ガス価格の指標となる蘭TTFは5日8時過ぎに一時、1メガワット時当たり284ユーロ(10月渡しの取引)を超えた。ロシアのウクライナ進攻が始まる前日(2月23日)までの2022年の平均価格(74.67ユーロ)の約3.8倍に上る水準だ。ロシアが欧州向け天然ガス供給停止期間の延長を通告したことが響いた格好。1年前(21年9月6日)は約10分の1の29ユーロ強にとどまっていた。

ガス価格の高騰に連動して電力の卸売価格が急騰している。欧州では電力の取引所価格が天然ガスの価格に合わせて決まる制度が採用されているためだ。

天然ガスは原子力、石炭など他の電源に比べ発電コストがもともと高い。だが、発電設備の起動時間が短く需給調整に欠かせないうえ、電力価格は電源の種類にかかわらず同一という事情があることから、天然ガス発電事業者が利益を確保できるようにするため、天然ガスに合わせて電力価格が決まるルールが採られてきた。

天然ガス価格が従来の水準にとどまっていれば問題はなかった。だが、現在は極端に高騰し他の電源とのコスト差が大幅に膨らんでいることから、電力の卸売価格が高騰している。この傾向が続けば、消費者や企業向けの料金も大きく上昇。電力は天然ガスと並ぶ家計・財務の圧迫要因となる。

一方、天然ガス以外の電源を利用する発電事業者は利幅が急拡大し、巨額の超過利潤を得ている。家計や多くの企業の犠牲の上に成り立つこうした利益に対しては風当たりが強く、ドイツ国内では超過利潤税の導入を求める声が強まっていた。

与党はこれを踏まえ、電力卸売取引で発電事業者が得る収入に上限を設けることで合意した。市場の卸売価格と発電事業者が得る収入(上限が設定された許容価格)の差額を消費者などの負担軽減に充てる考えだ。超過利潤税は導入しないものの、与党はこの措置を通して超過利潤に歯止めをかける。

一般世帯と中小企業に対しては、電力使用量が一定限度内であれば低料金が適用されるルールを導入する。これにより家計などの負担軽減を図る。一定限度を超えた場合は本来の高い料金が適用されることから、節電効果も見込めるとしている。超過利潤の制限で得られる資金が財源となる。

ミディジョブの月収上限2千ユーロに

エネルギー集約型企業を対象に実施している負担軽減策については、期限を9月末から12月末に延長することを決めた。

来年1月1日に予定していた炭素税(自動車・暖房用燃料に適用)の引き上げは1年、延期する。これに伴い24年以降の引き上げもそれぞれ1年、先送りされることになる。

与党はこのほか、◇第1子と第2子の子供手当を来年1月から月18ユーロ(年216ユーロ)引き上げる◇低所得者に支給する住宅手当に暖房費などを加算するとともに、支給対象を現在の70万世帯から200万世帯に拡大する◇被用者に軽減税率・社会保険料率が適用されるミディジョブの月収上限額を1月から2,000ユーロに引き上げ(現在1,300ユーロで、10月に1,600ユーロへと引き上げられる)、当該被用者の負担を計13億ユーロ軽減する◇天然ガスに付加価値税の軽減税率(7%)を適用する◇コロナ禍を受けて開始した外食への軽減税率適用期間を延長する――なども取り決めた。

全国のすべての近距離公共交通機関を利用できる低額の定期券も再導入する方向だ。6~8月に導入した同定期券の人気が極めて高かったためで、近距離公共交通向けの国の補助金上乗せ額(15億ユーロ)をやや上回る15億4,000万ユーロを州サイドが負担すれば復活させるとしている。料金は9ユーロから大幅に上昇する。49~69ユーロとなる見通し。

負担軽減策第3弾の総額650億ユーロのうち国は320億ユーロを負担する。資金は既存の予算の枠内で捻出する意向で、補正予算は組まない。憲法の新規債務制限ルールを来年から順守するとしたこれまでの方針も堅持する。超過利潤の制限措置では100億ユーロのケタ台の資金確保を見込む。