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2022/9/14

総合 - ドイツ経済ニュース

危機の影響広範囲に、先物高騰で来年はエネコスト7倍増も

この記事の要約

ロシアのウクライナ進攻をきっかけに始まったエネルギー危機の影響が広い範囲に及んでいることが鮮明になってきた。これまでは天然ガスの輸入会社や、物価高騰の直撃を受ける家計に関心が集まっていたが、ガスに連動した電力取引所価格の […]

ロシアのウクライナ進攻をきっかけに始まったエネルギー危機の影響が広い範囲に及んでいることが鮮明になってきた。これまでは天然ガスの輸入会社や、物価高騰の直撃を受ける家計に関心が集まっていたが、ガスに連動した電力取引所価格の高騰や、ガス調達コストの川下転嫁を需要家負担の分担金を通して進める特例措置が10月から始まることなどを背景に、経営規模や業種を問わず多くの企業が悲鳴を上げ始めている。21世紀に入ってからドイツが経験したこれまでの経済危機は影響の範囲が比較的、限られていた。ロベルト・ハーベック経済・気候相は企業支援を拡大する意向を表明したが、エネルギー不足対策との両立が難しく、有効な対策を打ち出せるかどうかは不透明だ。

北ドイツでは8日、同業組合に加盟するパン屋がそれぞれの店舗でデモ活動を行った。ショーケースや陳列棚を除き照明をすべて消した状態で営業を実施。エネルギー価格の高騰でガス・電力代を節約せざるを得なくなる事態を可視化し、ことの深刻さを顧客に訴えた。『南ドイツ新聞』によると、ハノーバーで23店舗を展開するカレンベルガー・バックシュトゥーベではガス費用がこれまでの年36万ユーロから約4倍の140ユーロに膨らんでいる。小麦粉の価格も昨年の1キログラム当たり29ユーロから60ユーロへと倍増した。大幅な値上げは避けられない状況だ。

だが、主食であるパンの価格高騰は避けたいという思いもある。ハンブルクのパン屋の女将は「パンを金持ちしか食べられないぜいたく品にしたくはない」と述べた。

独南部フランクフルトの小さなパン屋で「値上げしないのですか」と尋ねたところ、女将は「いずれせざるを得ないわね」と答えたうえで、「でも皆が困っているからね…」と複雑な表情をした。常連客もインフレのしわ寄せを強く受けていることが気になっているもようだ。

エネルギー集約型の企業はより大きな影響を受けている。高級香水瓶製造のハインツグラスでは国内工場のガス・電力コストが2019年は約1,100万ユーロだった。現在の先物市場価格をもとに計算すると23年は7倍の約7,700万ユーロに膨らむ見通し。カルレッタ・ハインツ社長は『フランクフルター・アルゲマイネ』紙に、年内に使用するエネルギーについてはすでに確保しているが、先物価格が下がらなければ来年は生産を停止せざるを得ないと明言した。

同社のエネルギーコストは現時点でも膨らんでいる。顧客にはその一部しか転嫁できないことから、投資は必要最低限に抑制。緊急性のないものは先送りしている。

GX・DX投資は先送り

独商工会議所連合会(DIHK)が国内メーカーを対象に実施したアンケート調査では、エネルギーコストの高騰を受けて生産の抑制・部分停止を実施したか計画しているとの回答が初夏の時点で計15.6%に上った。エネルギー集約型企業に限ると31.9%に達する。ペーター・アドリアン会長は製造業のガス消費量が現在、大幅に減っているのは「機械と設備の稼働停止が原因」であることが、この調査で裏付けられたと言明した。

アンケートでは年内に必要なガスを調達契約ですべての確保している企業が50%にとどまることも明らかになった。多くの企業が価格高騰を受けて調達を見合わせていることがうかがわれる。

一方、独産業連盟(BDI)が8月17日から9月4日にかけて中小・中堅企業を対象に実施したアンケート調査では、エネルギー・原料価格の高騰で会社存続の危機に直面しているとの回答が34%に達した。「国内生産を現在、抑制ないし停止している」は約10%、「国外への部分的な生産移管を実施した、ないし計画している」は約25%に上る。

「GX(グリーントランスフォーメーション)・DX(デジタルトランスフォーメーション)投資の先送りを余儀なくされている」は約40%に達した。多くの企業は新しい時代に対応するための改革に取り組む余力がないもようだ。

企業支援と省エネは綱渡り

ハーベック氏はこうした現状を受け8日の連邦議会(下院)で、「エネルギーコスト抑制プログラム(EKDP)」の適用対象を大幅に拡大する意向を表明した。これまでは同プログラムの補助金交付対象を厳しい国際価格競争にさらされるエネルギー集約型企業に制限してきたが、要件を大幅に緩和。業界や企業の規模を問わず受給できるようにするとしている。

だが、同補助金の支給対象を増やすとガス・電力の消費量が拡大し、エネルギー価格のさらなる上昇につながる懸念がある。経済・気候省の関係者は『ハンデルスブラット』紙に、企業を経営破たんから守ることと、省エネを促進することの両立は「綱渡りだ」と述べた。

ドイツは今世紀、現在のエネルギー危機に先立ち2つの危機に見舞われた。1つはリーマンショックに端を発する金融・経済危機(欧州債務危機を含む)、もう1つは現在進行形のコロナ禍だ。これらの危機の影響は大きく、国内総生産(GDP)の実質マイナス成長幅は09年が5.7%、20年が3.7%に達した。ただ、政府が適切に対応したこともあり危機の影響の範囲は比較的狭く、実体経済は健全性を維持していた。

今回の危機はGDPの構成比重が大きい個人消費と、国際競争のカギを握る製造業を直撃している。このため、長期化した場合はドイツ経済の基礎体力が低下する懸念がある。欧州中央銀行(ECB)が急速な利上げを余儀なくされ、企業の資金調達のハードルが高まっていることは追い打ちとなる。