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2022/9/28

総合 - ドイツ経済ニュース

エネ大手ユニパーを国有化、ガス分担金の導入は取り止め

この記事の要約

エネルギー危機の重要対策がこの1週間、相次いで打ち出された。1つ目は天然ガス大手ユニパーの国有化、2つ目はアラブ首長国連邦(UAE)からのLNG(液化天然ガス)輸入、3つ目は天然ガス輸入コストの高騰分を需要家が平等に負担 […]

エネルギー危機の重要対策がこの1週間、相次いで打ち出された。1つ目は天然ガス大手ユニパーの国有化、2つ目はアラブ首長国連邦(UAE)からのLNG(液化天然ガス)輸入、3つ目は天然ガス輸入コストの高騰分を需要家が平等に負担する分担金の導入停止方針だ。状況が緊迫するなか、政府は対策を速やかに打ち出すとともに、必要があれば修正する機動的な対応を迫られている。

ドイツ政府は21日、天然ガス調達コストの膨張で資金繰りが急速に悪化しているエネルギー大手ユニパーを国有化する計画を発表した。天然ガス輸入最大手の同社が経営破たんすると国内のエネルギー安定供給が損なわれ市民生活と経済に甚大な影響が出ることから、国有化してそうした事態を回避する考えだ。ユニパー株主と欧州連合(EU)欧州委員会の承認を経て実施する。

国はユニパーが行う第3者割当増資を単独で引き受け、80億ユーロを出資するほか、現在の親会社であるフィンランド同業のフォータムが持つ株式78%を約4億8,000万ユーロで取得する。取得価格はともに1株当たり1.70ユーロ。取引が完了すると国の出資比率は約99%に達する。

フォータムはこれまで融資と融資保証を通してユニパーを支援してきた。総額は80億ユーロ。国の出資後はフォータムに融資が全額返済され、融資保証は解消される。

ユニパーは7月、公的支援を受けることで政府と合意した。この時点では国の出資比率を30%とする計画だったが、ロシアがその後、欧州向けの天然ガス供給を停止し状況が一段と悪化していることから、支援を拡大し国有化することが避けられなくなった。政策金融機関KfWの融資枠は8月末時点で従来の90億ユーロから130億ユーロに引き上げられている。

ロシア産天然ガスへの依存度が高かった国内のガス会社は軒並み、資金繰りが悪化しており、天然ガス輸入3位のVNGは今月上旬、連邦経済・気候省(BMWK)に公的支援を申請した。露国営天然ガス会社ガスプロムの元子会社で独2位のセキュアリング・エナジー・フォー・ヨーロッパ(SEFE=旧ガスプロム・ゲルマニア)は連邦ネットワーク庁の信託管理下に置かれ、これまでに国から約100億ユーロの融資を受けた。政府はこの融資分を出資へと改めることを検討中だ。

UAE産LNGが12月に到着

オーラフ・ショルツ首相は24~25日に中東3カ国を訪問し、ロシアのウクライナ侵攻、中東情勢、人権など幅広い分野で意見を交わした。そのなかで最も大きな注目を集めたのはエネルギー分野の協議。ロシアからの天然ガス供給の停止を受け、政府は他の国からの輸入を早急に増やしたい考えだ。

随行した独エネルギー大手RWEのマルクス・クレッバー社長はUAEのアブダビ国営石油会社(ADNOC)からLNGを輸入することで合意した。年内にも供給を受ける。UAEのダース島で船積みされたLNG13万7,000立方メートルが12月末にも独北部のブルンスビュッテル港に到着する予定だ。ドイツはこれまで、LNGの再ガス化設備を持っておらず、同国初のLNG輸入となる。RWEは独政府の委託を受け同港で浮体式LNG貯蔵・再ガス化設備(FSRU)を運営することになっている。

同社はADNOCから2023年以降もLNGを数年間、輸入する。クレッバー社長はその趣意書にも署名した。

ショルツ首相が今回、訪問したのはUAEとサウジアラビア、カタールの3カ国。中東は太陽光と風力資源がともに豊富なため、再生可能エネルギーを用いてグリーン水素を生産するのに適している。炭素中立実現に必要なグリーン水素の多くを輸入で賄う方針のドイツにとって中東が持つ意味は大きい。

ガス価格引き下げへ

ドイツでは天然ガス価格の高騰で資金繰りが急速に悪化している輸入事業者を支援するため、輸入コストの上昇分を分担金の形で需要家が負担するルールが10月1日付で導入されることになっている。だが、天然ガス輸入最大手のユニパーが国有化される見通しとなったことを受け、国有企業を税金でなく、市民と企業の直接的なコスト負担で支援することへの法的な懸念が浮上。エネルギー価格の上昇とインフレ高進の圧迫を受け破たんの危機に直面する家計と企業にさらなる負担をかけることは経済・社会政策上、好ましくないとの認識も広がったことから、分担金の導入を中止することで政府・与党内の意見が一致した。10月1日までに修正策を実施できない場合は、分担金ルールをひとまず導入したうえで、速やかに廃止することになる。

政府・与党は天然ガス価格の引き下げも図る意向だ。ただ、そのためには巨額の資金が必要となることから、財源確保も含めどのような政策を取るべきかの調整が急ぎ足で進められている。