政府の経済諮問委員会(通称:5賢人委員会)は9日、『秋季経済予測(経済鑑定)』を提出した。今回の重点テーマはエネルギー危機と高インフレ問題。政府が市民や企業の負担軽減策を行っていることを原則的に評価しながらも、不適切な措置もあるとして見直しを提言した。
ウクライナに軍事侵攻して欧州連合(EU)の制裁を科されたロシアは欧州向けの天然ガス供給を大幅に削減した。ドイツ向けは完全に停止されている。こうした状況を受け天然ガスが不足するとともに、化石燃料と電力の価格が高騰。コロナ禍の影響でサプライチェーンが以前からひっ迫していることもあり、物価が急上昇している。ドイツの10月のインフレ率は10.4%となり、1950年代初頭以来の高水準に達した。
世帯は電力や暖房の使用と、消費を抑制。企業もエネルギー集約型メーカーを中心に生産を控える動きが広がっている。
5賢人委はこれらの問題に対処するため、(1)物価・エネルギー価格の上昇を抑制する(2)世帯と企業の負担軽減をピンポイントで行う(3)負担軽減策の財源を連帯的に確保する――という3つの目標を設定。これに基づいて政府と欧州中央銀行(ECB)の政策を評価した。
高インフレは経済成長、労働市場、企業の資金確保と投資に悪影響をもたらす懸念があることから、ECBに対しては政策金利をこれまでに引き続き引き上げることを要請した。ただ、利上げが景気を過度に冷え込ませることは避けるべきだとして、経済成長と金利のバランスに注意を払うことが重要だとも指摘した。
世帯の負担軽減策については、物価高騰の影響度が所得によって大きく異なることを踏まえ、支援は低・中所得層を中心に行うべきだと強調した。国家財政の安定を保つ必要もあり、高所得層への支援は不要と判断している。政府が今夏に実施した自動車燃料税の軽減策は主に高所得層がメリットを享受しており、不適切と批判。名目所得が増えても所得の増加に伴う税率上昇とインフレの作用で実質所得が減少する「冷たい累進性」を解消するために政府が打ち出した減税政策についても、同じ理由から現時点では好ましくないと厳しい評価を下している。
負担軽減策の財源については、その一部を富裕層から時限徴収することを提言した。具体的には最高税率の引き上げ、ないしエネルギー連帯税の導入を求めている。
コロナ禍を受けて適用を停止した基本法(憲法)の新規債務抑制ルール(債務ブレーキ)を23年から復活させるとした政府の方針に対しては、エネルギー危機を理由に再考を促した。
エネルギー価格の引き下げに向けては、供給拡大を通してエネルギー不足を緩和するとともに、電力や天然ガスの消費量を抑制することが必要だと訴えた。残存する原子力発電所の稼働延長期間を来年4月15日までの4カ月半に制限する政府の政策は不十分だとの立場だ。
23年はマイナス成長に
2022年の国内総生産(DGP)成長率に関しては春季予測の1.8%から1.7%へと引き下げた。外需が足を強く引っ張るほか、資材高騰や金利上昇を受けて建設投資も失速する。個人消費はコロナ規制の緩和を受けて上半期が好調だったことから4.6%増加。政府最終消費支出も3.8%増える。
23年はGDPが0.2%縮小し、マイナス成長へと転じる。個人消費が0.6%、建設投資が2.5%減少することが響く。外需は成長率を押し上げも押し下げもしない見通し。
インフレ率は今年8.0%となり、前年の3.1%から大幅に上昇する。来年も7.4%と高止まりする見通しだ。
失業率は今年、5.3%となり、2年連続で低下する。来年は5.4%とやや上昇するものの、雇用情勢は安定を保つ。
5賢人委はまた、コロナ禍とロシアのウクライナ進攻でエネルギー、重要資源・物資を他国に依存するリスクが露呈したことにも触れた。地政学的な環境が大きく変わったこともあり、独・欧州は自律性を高めなければならないと指摘。欧州の生産能力とインフラを拡充するとともに、サプライチェーンと資源・エネルギーの調達先を多元化すべきだとしている。