独フォルクスワーゲン(VW)の商用車子会社トレイトンは中国事業を今後も強化する方針だ。地政学リスクは高まっているものの、世界トラック市場(6トン車以上)の4割を占める同国から撤退すれば、業界最大手になるという長年の目標を達成できないためだ。クリスティアン・レビン社長は経済紙『ハンデルスブラット』に、「世界市場でのわが社の地位を高めるためには中国が必要だ」と明言した。
トレイトンは競合のボルボ、ダイムラー・トラックに比べ売り上げが少ない。グローバルなプレゼンスが弱いためだ。同社はこの問題の克服に向け、米同業ナビスターを昨年、買収した。今後は中国でも自ら生産に乗り出す計画で、上海の北西およそ150キロの如皋(じょこう)に現在、年産能力5万台の工場を建設している。2025年から傘下ブランド「スカニア」の生産を開始。同国を含むアジア市場向けに出荷する。中国で自社工場を持つ西側初の商用車メーカーとなる。
中国市場で販売されるトラックは従来、低価格帯製品が中心だった。だが、近年は物流の効率化や環境規制の強化を背景に高価格帯製品の需要が増えていることから、トレイトンは2020年、現地工場の建設を決めた。
アジアに工場を持つことで、同社は輸送コストを削減する。輸送距離が短くなることから、納品期間の短縮と温室効果ガスの排出削減にもつながる。
中国の人権侵害や米国・周辺諸国との軋轢、台湾進攻懸念など地政学リスクが近年、急速に高まっていることについては、国家だけでなく同社のようなメーカーも注意深く行動しなければならないと述べた。ただその一方で、中国で事業を展開する外資系企業で最大級のVWグループの一員として現地事業を継続すれば、米国との通商摩擦や温暖化防止、人権問題で影響力を行使し得ると強調。トレイトンの事業リスクは制御可能だと明言した。中国の台湾進攻などで状況が極端に悪化した場合、中国事業から撤退するかどうかには触れていない。
同社はロシアのウクライナ進攻後、ロシア事業からの撤退方針を表明した。来年3月末までに撤退を完了する。これに関しては、29年に渡って活動してきた市場からの撤退は残念だと言明。中期的には再進出の可能性がないとの判断を示した。