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2023/2/8

総合 - ドイツ経済ニュース

ウルフスピードとZFが独にSiC工場、国は費用25%以上を支援か

この記事の要約

半導体大手の米ウルフスピードと自動車部品大手の独ZFフリードリヒスハーフェンは1日、西南ドイツのザールラント州エンスドルフで記者会見を開き、研究開発(R&D)センターと工場をそれぞれ合弁で建設する計画を明らかに […]

半導体大手の米ウルフスピードと自動車部品大手の独ZFフリードリヒスハーフェンは1日、西南ドイツのザールラント州エンスドルフで記者会見を開き、研究開発(R&D)センターと工場をそれぞれ合弁で建設する計画を明らかにした。SiC(炭化ケイ素)半導体を自動車や再生可能エネルギー、産業向けに開発・製造する。記者会見には独ショルツ首相とハーベック経済相がそろって出席しており、半導体産業の強化に向けた政府の熱意が感じられる。欧州連合(EU)の「欧州の共通利益に適合する重要プロジェクト(IPCEI)」の枠組みで補助金を受けることが決まれば、両社は工場を建設する。

両社は200ミリウエハーSiC半導体分野で世界最大の工場をエンスドルフの石炭火力発電所跡地に建設する。年内に着工し、2027年から生産を開始する方向だ。生産能力や投資額は明らかにされていない。経営権はウルフスピードが握る。ZFは億(ユーロ)のケタ台の資金を拠出し、その見返りにウルフスピードの普通株を取得する。

研究開発センターではZFが過半数を出資する。設置場所は明らかにされていない。ZFのシュテファン・フォンシュックマン取締役(電動駆動技術担当)は『フランクフルター・アルゲマイネ』紙に、ザールラント州以外の西南ドイツであることを明らかにした。

同紙によると、工場と研究開発センターの投資額は計20億~30億ユーロに達するもようだ。そのうちの25%以上を国の補助金で賄う計画。地元ザールラント州も用地提供の形で支援を行う。

両社は2019年、SiCインバーター搭載電動パワートレインの開発に向け戦略パートナーシップを締結した。新たにSiC半導体の研究開発と製造で協業することで、協力関係を高い次元へと引き上げる。

SiC半導体はケイ素 (Si) と炭素 (C) で作られる化合物半導体。従来のシリコン半導体に比べ電力消費量と発熱によるエネルギー損失が少ないことから、電動車の走行距離拡大や充電時間の短縮につながる。需要は今後、大幅に拡大すると見込まれている。

EUは世界の半導体生産に占める同地のシェアを30年までに現在の10%から20%以上に引き上げる目標を掲げている。その実現に向け官民で430億ユーロを投じ、開発拠点や生産設備の増強を後押し。有力メーカーの誘致にも力を入れ、東アジアなど域外への依存度を下げて安定供給を確保する考えだ。ショルツ氏は「ウルフスピードとZFの最先端半導体工場は独・欧州製造業の安定供給に大きく貢献する」と意義を強調した。

SiC半導体の安定確保が可能に

ウルフスピードとの協力関係強化でZFが受ける恩恵は極めて大きい。研究開発センターでの協業を通してSiC技術へのアクセスが可能になるうえ、エンスドルフ工場で生産されるSiC半導体の供給を安定的に受けることができるためだ。

SiC半導体はケイ素と炭素からなるSiCを結晶成長させた塊(インゴッド)を原料としている。同半導体の需要が大幅に拡大していくと、SiC結晶(炭化ケイ素単結晶)は今後数年で供給不足に陥る懸念がある。ウルフスピードはSIC結晶を内製していることから、ZFは競合部品メーカーよりもSiC半導体を安定確保しやすいとみられる。

競合ボッシュはSiC半導体を自ら生産している。ただ、SiC結晶は外部から調達しているため、同結晶の需給がひっ迫すると調達が難しくなったり調達コストが膨らむリスクがある。

ZFのフォンシュックマン氏はこの事情を踏まえ、「他社も(SiC半導体)チップ工場は持っているだろう。だが、わが社はウルフスピードとともに全プロセスを掌握している」と強調し、自社の優位性を示唆した。

ロシアのウクライナ進攻や世界的な景気減速を受け、半導体業界の風向きは悪くなっている。米競合インテルが昨年3月に打ち出した独マグデブルク工場の建設計画は宙に浮く懸念もある。

マグデブルク工場の建設コストは170億ユーロ。そのうち68億ユーロを国の補助金で賄う方向だが、同社は需要減と建設コストの膨張を受けて補助金の上乗せを要求している。広報担当者は1月上旬、場合によっては同プロジェクトを縮小したり延期する可能性があることを明らかにした。

こうした逆風が吹くなかウルフスピードがあえて欧州進出に踏み切ることは注目に値する。

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