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2023/4/5

総合 - ドイツ経済ニュース

与党の政策調整で緑の党が孤立、ヒートポンプ以外の暖房新設も可能に

この記事の要約

独与党の政策調整会議が2~4日の3日間、実施された。当初は1日で終了すると見込まれていたが、気候中立に関わる政策で議論が難航。延長が繰り返され、計31時間の長丁場となった。与党3党ではこれまで、中道左派の社会民主党(SP […]

独与党の政策調整会議が2~4日の3日間、実施された。当初は1日で終了すると見込まれていたが、気候中立に関わる政策で議論が難航。延長が繰り返され、計31時間の長丁場となった。与党3党ではこれまで、中道左派の社会民主党(SPD)・緑の党と、中道右派の自由民主党(FDP)が対立することが多かった。今回は温室効果ガス排出削減を優先する緑の党が、規制を最小限にとどめたいFDPと拙速の気候政策が市民生活にもたらすしわ寄せを懸念するSPDから再考を促され、孤立した格好だ。

FDPのクリスティアン・リントナー党首(財務相)は当初、3日に歯医者の予約を入れていた。だが、政策調整のメドが3日未明になってもつかず、会議を一度打ち切って同日中に再開することになったため、予約を4日に延期した。議論はその後も紛糾したことから、通院は最終的に5日に延ばさざるを得なくなった。

緑の党が他の2党と特に対立したのは、(1)暖房規制(2)気候中立実現に向けた建造物や交通など各部門の排出削減目標の取り扱い(3)交通インフラの拡充――の3点だ。

緑の党のロベルト・ハーベック氏(経済・気候相)はこれまで、2024年以降はヒートポンプ以外の暖房を実質的に設置できないようにする意向を表明していた。ガス・石油暖房の新設を全面禁止するもので、市民や企業の間には不安が広がった。家計への大きな負担が懸念されるうえ、ヒートポンプの供給不足で暖房を使用できないケースも予想されるためだ。政府経済諮問委員会(通称:5賢人委員会)のヴェロニカ・グリム委員は、専門人材と資材不足でヒートポンプの製造・設置がニーズに追いつかない恐れがあると指摘。また、将来的に普及が見込まれる水素暖房の可能性が狭められることも問題視した。住宅によってはヒートポンプが十分な暖房効果を発揮しないという指摘もある。

政策調整会議ではこうした事情を踏まえ、所轄大臣のハーベック氏が示していた方針に修正が加えられた。24年以降に設置の暖房は再生可能エネルギーの使用比率が65%以上でなければならないとする方針は堅持されたものの、再生エネベースのグリーン水素ないし天然ガスベースのブルー水素を燃料に用いる燃焼型の暖房や、ヒートポンプをメインとするガス併用のハイブリッド暖房が認められることになった。

また、ガス・石油暖房についても例外的に24年以降の新設が認められる。具体的には(1)80歳以上の高齢世帯(2)故障した暖房の修理が不可能だが、ヒートポンプが品薄で設置できないため、暖房なしで冬を過ごすことになる――が該当する。(2)の場合は、ガス暖房などの新設後3年以内に再生エネ使用比率を65%以上に引き上げなければならない。

ガス・石油暖房からヒートポンプなどの環境に優しい暖房に切り替える場合は補助金を交付する。リントナー氏は日曜版『ビルト』紙のインタビューで、補助金の額を古い暖房ほど高くする意向を表明した。低所得世帯は古い暖房を使用していることが多いことから、高い補助金を受けるケースが多くなる。

部門別の排出削減を柔軟化

ドイツは炭素中立の実現に向け、二酸化炭素(CO2)の排出削減目標を建造物やエネルギーなどの部門別に設定している。多くの部門は目標値を達成しているものの、交通は大幅に上回る未達状態が続いている。この問題についてFDPは、削減目標をドイツ全体で達成することが重要だと主張。個々の部門に目標値を厳格に適用するのでなく、目標を達成した部門が未達の部門を支える方向にルールを改正すべきだと訴えた。緑の党は反発したものの、SPDが理解を示したことから、各部門の目標は柔軟に取り扱われることになる。世論調査機関ヴァーレンが公共放送ZDF向けに実施した最新のアンケート調査では、回答者の61%が35年以降の内燃機関車販売禁止に反対しており、SPDは民意を踏まえFDPに同調したもようだ。

高速道路の改修・拡張に関しても緊急性の高い計144のプロジェクトについて、計画・認可手続きを大幅に短縮することが取り決められた。緑の党はしぶしぶ同意したが、党内や環境保護団体からは批判の声が出ている。

政策理念が大きく異なる現与党3党が政権を機能させるためには適度な譲歩が必要となる。実際の政策で成果を挙げれば、将来の連立の選択肢が増え、ドイツの政治文化は深みを増すことになる。