医薬品の安定確保と新薬開発への投資促進を目的とする規制改革の議論が欧州連合(EU)で本格化するなか、加盟国の多くは医薬品の原料を中国からの輸入に依存する現状を改善するための新たな規制の導入を求めているもようだ。複数の欧州メディアが2日、独自入手した内部文書をもとに報じた。
新型コロナウイルス感染症の世界的流行により、医薬品市場ではサプライチェーンの脆弱性が浮き彫りになった。また、ロシアのウクライナ侵攻でエネルギーや原材料の価格が上昇したことから、後発医薬品(ジェネリック医薬品)メーカーの多くは急激なコスト増のため生産能力の拡大に消極的となり、欧州では抗生物質や解熱鎮痛薬、血栓症治療薬、インスリンなどの供給不足が深刻化している。
欧州委員会はこれを踏まえ4月下旬、医薬品の単一市場を創出し、EU全域で医薬品を安定的に入手できるようにするための規制改革案を発表した。先発医薬品メーカーが新薬を独占的に販売できる期間を現行の10年から8年に短縮し、ジェネリック薬を早期に投入できるようにすることが柱の1つ。ただし、市場投入から2年以内にすべての加盟国で新薬が販売された場合は、独占販売の期間を2年延長する。
改革案にはこのほか、欧州医薬品庁(EMA)による販売承認のための審査期間の短縮や、革新的な技術や治療法を迅速にテストするための「規制のサンドボックス制度」の導入、さまざまな理由で供給不足が予想される場合、EU当局に早い段階で報告するようメーカーに義務付けることなどが盛り込まれている。
ロイター通信が入手した2日付の文書によると、フランス、ドイツ、ベルギー、スペインなど19カ国は欧州委の提案を支持したうえで、EU全体で重要な医薬品の供給不足を回避するための新たな規制の導入を求めている。具体的にはより厳格な監視を必要とする重要医薬品のリストを作成し、対象となる医薬品については供給体制を常にチェックして潜在的な供給不足のリスクを特定。緊急時には加盟国間で相互に融通できる仕組みを構築することなどを提案している。
文書は「EUはごく少数のメーカーと限られた地域からの輸入に強く依存している。2019年には世界の医薬品市場で有効成分(API)の40%以上が中国から調達されており、ほぼすべてのAPI製造元は中国に依存している」と指摘し、APIの調達先が中国とインドに集中しているため、アジアで地政学的または経済的混乱が生じた場合、サプライチェーンが打撃を受けることになると警告。経済的重要性が高く、供給上のリスクがある重要原材料について、域外国からの輸入を一定の水準以下に制限して供給元の多様化を図る「重要原材料法」や、域内の半導体産業を育成し、30年までに半導体製造の世界シェアを20%に引き上げる目標を盛り込んだ「欧州半導体法」のような法的枠組みを整備する必要があるとしている。