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2023/5/17

総合 - ドイツ経済ニュース

欧州投資はニアショアがけん引、対独は5年連続で減少

この記事の要約

欧州を対象とする外国直接投資は昨年5,962件となり、前年を1%上回ったことが、コンサルティング大手アーンスト・アンド・ヤング(EY)が11日に発表した調査レポートで分かった。増加は2年連続。ドイツなど主要国への投資が低 […]

欧州を対象とする外国直接投資は昨年5,962件となり、前年を1%上回ったことが、コンサルティング大手アーンスト・アンド・ヤング(EY)が11日に発表した調査レポートで分かった。増加は2年連続。ドイツなど主要国への投資が低迷するなか、ニアショアリングの動きがけん引車となり、南欧や中東欧では件数が大きく伸びた。

EYが毎年、実施する同調査は新規の拠点開設と雇用創出をもたらす投資プロジェクトを対象としている。ポートフォリオ投資とM&A(企業・事業の合併・買収)は対象外。国際的に事業を展開する企業にアンケート調査も行う。アンケート調査(508社)は今回、2~3月に実施した。

2022年の投資件数は前年を上回ったものの、コロナ禍直前の19年(6,412件)を7%下回った。過去最高となった17年(6,653件)に比べると10%少ない。ロシアのウクライナ進攻に伴う欧州のエネルギー価格高騰が響いた格好だ。多くの投資プロジェクトが凍結・中止となった。

これを反映して英国は6%減の929件、ドイツも1%減の832件へと落ち込んだ。英国は欧州連合(EU)離脱(ブレグジット)が尾を引いているという事情もある。ブレグジットを決めた国民投票翌年の17年(1205件)からは23%減少した。

フランスは前年比3%増の1,259件となり、投資先1位の地位を堅持した。マクロン政権が投資環境の改善に取り組んでいることが大きい。ただ、増加率は前年の24%から大幅に縮小した。

そうしたなか、5位トルコ(22%増の321件)、6位ポルトガル(24%増の248件)、7位イタリア(17%増の243件)、8位ポーランド(30%増の237件)、10位アイルランド(21%増の184件)は大きく伸びた。

背景には、コロナ禍に伴うサプライチェーンのひっ迫と地政学リスクの高まりを受けて国際的な生産体制の見直しが活発化していることがある。中東欧や南欧、トルコは供給途絶リスクが低いうえ、人件費も低いことから、格好の投資先となっている。アイルランドは英国の代替投資先となっているもようだ。

国別の投資先シェアはフランスが21%に上った。2位英国は16%、3位ドイツは14%、4位スペインは5%となっている。

対欧投資が特に大きく増えた業界は企業向けサービスとエネルギー供給で、伸び率はそれぞれ37%、36%に上った。ソフトウエア・ITサービス(8%増)、電機(6%増)、金融サービス(5%増)も前年を上回った。

一方、自動車・輸送機器は7%減、化学は6%減、機械は4%減と振るわなかった。自動車・輸送機器は前年に大きく増えたことからその反動が出た格好だ。化学はエネルギー価格の高騰が響いたとみられる。

業界別のシェアはソフトウエア・ITサービスが20%で最も高かった。これに企業向けサービスが13%、自動車・輸送機器が8%で続く。機械は6%で5位、電機は5%で9位、化学は4%で10位だった。

投資元国では米国がダントツで多く、1,240件(6%増)に達した。2位はドイツで685件(4%増)、3位は英国で515件(15%増)。中国は222件(14%減)で7位、日本は172件(2%減)で9位だった。

トルコの対独投資は9割増で2位に

対独投資は5年連続で減少し、13年以来の低水準へと落ち込んだ。過去最高となった17年(1,124件)に比べると26%少ない。EY独法人のヘンリク・アーラース社長は、ドイツは依然として産業立地競争力が高いとしながらも、コスト高がネックとなりメーカーが敬遠しているとの見方を示した。もともと割高だったエネルギー価格がロシアのウクライナ進攻で一段と高騰したことは大きな痛手だ。工場建設の認可手続きが煩雑で長期化するという問題も大きい。

対独の投資元国をみると、トルコは87%増の97件と急拡大し、米国(158件)に次ぐ2位に浮上した。3位英国(20%増の95件)、5位フランス(20%増の48件)、9位インド(40%増の21件)も大きく伸びた。中国は17%減の85件に後退したものの、同国の対欧投資全体(222件)の38%を占めている。

国際的な企業を対象とする「欧州で最も魅力的な投資先3カ国はどこですか」との質問では、「ドイツ」との回答が62%となり、最も多かった。昨年は42%で、フランス、英国に次ぐ3位にとどまっていた。EYはドイツ評価の大幅改善について、エネルギー危機がひとまず遠のいたことが大きいと指摘。そのうえで、肯定評価が実際の投資につながるかどうかは定かでないとの見方を示した。エネルギー価格が依然として高いことほか、税負担や専門人材不足が足かせになるとしている。