フィンランド政府は9月29日、隣国ロシアからの観光ビザでの入国を30日から原則として拒否すると発表した。プーチン露大統領が21日に予備役の部分的な動員を発表して以降、陸路でフィンランドに入国するロシア人が急増しており、安全保障上のリスクが大きいと判断した。これにより、ロシアと国境を接するEU加盟国はすべてロシア人観光客に対して国境を閉鎖したことになる。
EUはウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアに対する制裁措置の一環として、ビザ発給の円滑化協定を9月12日付で完全停止し、EU域内へのロシア人の受け入れを事実上制限している。ロシアに隣接するバルト3国とポーランドは19日からロシア人観光客の入国を拒否しており、フィンランドはロシアにとってEUへの唯一の陸路となっていた。
フィンランド政府はロシア人観光客へのビザ発給件数を9月1日以降、1日当たり100件に制限しており、8月と比べて10%程度に減少している。しかし、部分動員令が発令された21日以降、動員を逃れようとする男性やその家族などを中心に、陸路で入国したロシア人が1週間で約5万人に上り、フィンランド経由で欧州各地に移動するケースも相次いだことから今回の措置を決定した。ただし、フィンランド国内に居住する家族を訪問するケースや、就労や就学を目的とする入国は引き続き認められる。
ハービスト外相は記者会意見で、プーチン大統領による部分動員令の発令が今回の決定に「重大な影響を与えた」と説明。ロシア人による観光目的の入国は「フィンランドの国際的な立場や国際関係を危うくする」と強調した。
部分動員令を受けて国外に脱出するロシア人の扱いをめぐり、EU内で意見が割れている。バルト3国や中東欧諸国は、受け入れ拒否を含めてEUとしての方針を決めるよう求めているのに対し、ドイツやフランスなどは受け入れに前向きな姿勢を見せている。
こうした中で欧州委員会のヨハンソン委員(内務担当)は30日、ロシア人に対するビザ発給の手続きを厳格化するよう加盟国に求めた。人道上の理由など例外的なケースを除き、短期ビザの保有者がEU域内でビザを更新したり、国外に脱出したロシア人が滞在先でビザを申請するのを認めるべきではないとの考えを示している。
部分動員令の発令以降、すでに20万人を超えるロシア人が国外に逃れたとされる現状について、ヨハンソン氏は「EUに対する安全保障上の脅威がエスカレートしている」と指摘。ロシアがウクライナへの軍事侵攻を続けている状況で、ロシア国民がEUに滞在するための短期ビザを取得することは「基本的な権利ではなく、特権だ」と強調した。そのうえで、プーチン政権の弾圧を逃れて加盟国に亡命を申請することを阻止する意図はないとつけ加えた。