EU司法裁判所の一般裁判所は9月29日、2019年にEUとモロッコが締結した貿易および漁業分野の2つの協定を無効とする判決を下した。EUはモロッコが実効支配する西サハラから同意を得ていないため、両協定を同地域に適用することはできないとして、協定の無効化を求めていた原告側の主張を認めた形。ただし、EUの「対外行動と国際的な約束に対する法的確実性」を確保するため、EU司法裁判所への控訴期間(2カ月間)は協定の効力が維持される。
西サハラはモロッコ、モーリタニア、アルジェリアと国境を接するアフリカ北西の沿岸部にある地域で、1884年にスペインの植民地となった。1975年にスペインが領有権を放棄した後、西サハラを「再統合した」モロッコと、アルジェリアが支援する独立派武装組織「西サハラ民族解放戦線(ポリサリオ)」の間で対立が続いていた。国連の仲介で91年に停戦が発効し、2007年から和平交渉が始まったが、溝は埋まっていない。
問題となっているのは、モロッコからEU向けに輸出される農産品などを対象とする特恵関税制度を修正する内容の協定と、EU・モロッコ間の持続可能な漁業パートナーシップ協定。欧州委員会は両協定について、「経済活動や雇用面で西サハラに恩恵をもたらす」と強調していた。しかし、ポリサリオ戦線はEU側が西サハラの同意を得ずに協定締結の手続きを進めたことを問題視し、2つの協定を同地域に適用することはできないとして、協定の無効化を求めて一般裁に提訴した。
裁判所はまず、ポリサリオ戦線は西サハラの住民を代表する組織として国際的に認知されており、EUに対して訴訟を提起する法的能力を有すると説明。そのうえで、EU側は協定締結にあたり、領有権争いが続く西サハラの住民から「十分な同意を得ていなかった」と指摘し、協定の無効化を求める原告側の主張を認める判断を示した。
ポリサリオ戦線のEU代表は「歴史的な判断で、西サハラに人々の勝利だ」と判決を歓迎。一方、EUのボレル外交安全保障上級代表は、モロッコと協力して安定的な通商関係の維持に努めるとコメントした。