英国がEUと締結した離脱協定のうち、英領北アイルランドで導入された通商ルールの見直しを求めている問題で、EUが2月末までの合意を目指していることが分かった。5月に北アイルランドで実施される議会選挙で、同問題が大きな争点となるのを避けたいという思惑がある。
この方針は、同問題をめぐる英国との協議でEUの代表を務める欧州委員会のシェフチョビチ副委員長が20日、欧州議会議員との私的な会合で明らかにしたもの。英フィナンシャル・タイムズなどが、出席者から得た情報として伝えた。
EUと英国の離脱協定には、北アイルランドとアイルランドの紛争に終止符を打った1998年の和平合意に基づいて「北アイルランド議定書」が盛り込まれ、北アイルランドはEU単一市場と関税同盟に残ることになった。
これによって北アイルランドと地続きで国境を接するEU加盟国アイルランドの間に物理的な国境を設けず、英の離脱後も物流やヒトの往来が滞らないようになった。しかし、北アイルランドは英国領でありながらEUの通商ルールが適用される「特区」のような存在となり、英本土から北アイルランドに流入する食品など物品についてはEUの厳しい食品・衛生基準を満たさなければならず、通関・検疫が必要となる。この代償を英政府はEUを離脱してから問題視し、大幅な見直しを求めているが、協議は進展していない。
北アイルランドでは5月5日に議会選が行われる。EUが2月末までの妥結を目指すのは、英国との一体性を重視するプロテスタント系のユニオニスト派が、議定書によって北アイルランドが英本土から切り離されたとして反発していることが背景にある。早期に協議を終わらせ、十分な冷却期間を置かなければ、選挙戦で同問題が最大の焦点となり、アイルランド再統一を主張するカトリック系のナショナリスト派との対立が激化し、暴動に発展しかねないと懸念している。
出席者によると、シェフチョビチ副委員長はこのような事態を避けたいという点で英国側と一致していることを明らかにしたという。
同協議をめぐっては、英国の代表が対EU強硬派のフロスト内閣府担当相からトラス外相に交代したことで、打開の機運が高まっていた。シェフチョビチ氏とトラス氏の初顔合わせとなった13、14日の協議では、進展はなかったものの、共同声明には話し合いが「友好的な雰囲気」で行われたという文言が盛り込まれ、融和ムードが協調された。
しかし、シェフチョビチ氏が同会合で明らかにしたところによると、実際にはトラス氏は強硬姿勢を崩していない。具体的には◇本土から北アイルランド経由でアイルランドなどEUに輸出される物品だけを通関・検疫手続きの対象とする◇北アイルランドの通商ルールをめぐる紛争を欧州司法裁判所の管轄とするルールの撤廃――というEUが拒否している要求を突き付け、シェフチョビチ氏は「驚かされた」という。
このため、合意のハードルは依然として高く、あるEUの高官はフィナンシャル・タイムズに対して、2月末までに合意できない場合は協議を一時凍結したいという印象をシェフチョビチ氏から受けたと語った。