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2011/11/16

総合 - ドイツ経済ニュース

ユーロ危機の打開策を5賢人委が提言

この記事の要約

政府の経済諮問委員会(通称:5賢人委員会)は9日に提出した2011年版『経済鑑定書』のなかで、ユーロ危機からの脱出に向けた独自構想を打ち出した。加盟国の債務の一部を新設の「債務返済基金」に移管したうえで、償還期限を迎えた […]

政府の経済諮問委員会(通称:5賢人委員会)は9日に提出した2011年版『経済鑑定書』のなかで、ユーロ危機からの脱出に向けた独自構想を打ち出した。加盟国の債務の一部を新設の「債務返済基金」に移管したうえで、償還期限を迎えた国債の借り換えを基金が調達する市場資金で行うのが特徴だ。ただ、債務不履行(デフォルト)となる国が出た場合はユーロ加盟国が共同で保証するという点で、ドイツ政府が以前から拒否しているユーロ共同債構想と共通しており、メルケル首相は受け入れられないとの立場を表明した。国内のエコノミストからも批判が出ている。

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ユーロ加盟国には累積債務の対国内総生産(GDP)比率を60%以下に抑えることが義務づけられている。だが、実際にこのルールを順守している国は少なく、ドイツも80%を超えている。

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5賢人委はこれを踏まえ、各国の債務の60%を超える部分について債務返済基金への移管を提言した。移管される債務の総額は2兆3,000億ユーロで、その41%をイタリアが占める。ドイツは25%でこれに続く。

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同基金は債券を発行して市場資金を調達し、償還期限を迎えた国債の借り換えに充てる。借り換えコストはギリシャなどの財政悪化国が自ら市場で調達するよりも低くとどまる。

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基金の債券発行は加盟国が保有する通貨準備金と金を担保に行われる。このため、デフォルトに陥る国が出た場合、加盟各国は共同で保証することを義務づけられる。

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デフォルト発生の回避に向けては、◇基金を利用する加盟各国に債務削減ルールを憲法に盛り込むことを義務づける◇基金の支援を受ける際に策定する財政再建計画を遵守しない国には債務の共同保証を適用しないほか、制裁金も科す――などのルールを提唱した。これにより各国は債務圧縮に前向きに取り組むようになるとしている。

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各国は自国の債務を最終的に自らの手で返済する。返済資金は付加価値税などの税率上乗せを通して確保する。

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基金に移管された債務の返済期間は20~25年を予定。返済後は基金を解消する。

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財政悪化国の債務を加盟国全体で共同保証すると、財務力の高いドイツは資金調達コストが上昇するため、以前から強く反対している。5賢人委の提案に対しても憲法(基本法)や欧州連合(EU)条約の改正が必要になり現実的でないとして明確に拒否の立場を表明した。

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Ifo経済研究所のハンスヴェルナー・ジン所長もエコノミストの立場から反対している。同所長はイタリアが毎年、GDPの3%相当額を国債の利払いと返済に充てるとした5賢人委の試算を踏まえ、「イタリアがこうした返済計画を履行できまた履行する意思があるのであれば、すでに現在の時点で資本市場を納得させることができ、金利は低下するだろう」(『フランクフルター・アルゲマイネ』紙の取材)と指摘。債務返済基金構想は実効性がないとの見方を示した。デフォルト回避に向け各国に課す財政赤字削減ルールについても遵守されないとみている。

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ドイツ経済は軟着陸の見通し

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5賢人委はドイツ経済については先行きを読みにくいとしながらも「軟着陸」 する可能性が高いと予想。2012年のGDP成長率は0.9%になるとの予測を示した。雇用情勢の改善が今後も続き個人消費が拡大するほか、低金利の効果で企業投資も衰えないことなどが景気を底支えするという。

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ただ、ユーロ危機が一段と深刻化すると、ユーロ加盟国向けの輸出が低迷し、消費マインドにも影響。成長率は0.4%にとどまるとしている。また、ユーロ危機の影響が全世界に波及した場合はリセッション(景気後退)に陥る可能性もあるという。

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名目所得が増えてもインフレと所得税の累進性の作用で実質収入が減少する現象に歯止めをかける目的で政府が打ち出した所得税減税については支持を表明しつつも、財源については歳出削減で確保するよう注意を促した。

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