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2013/9/25

ゲシェフトフューラーの豆知識

早期の自主退社、社員に研修費用の返済義務はあるか?

この記事の要約

会社の経費で研修を受けた社員が一定期間以内に自主退社した場合は研修費用を全額、会社に返済しなければならない――。そんな取り決めを労働契約に盛り込むケースがある。研修を受けてすぐ退社されたのでは、会社としてはペイしないから […]

会社の経費で研修を受けた社員が一定期間以内に自主退社した場合は研修費用を全額、会社に返済しなければならない――。そんな取り決めを労働契約に盛り込むケースがある。研修を受けてすぐ退社されたのでは、会社としてはペイしないからだ。だが、こうした契約ははたして法的に認められるのだろうか。この問題をめぐる係争で最高裁の連邦労働裁判所(BAG)が5月に判決(訴訟番号:3 AZR 103/12)を下したので、ここで取り上げてみる。

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裁判は航空会社が同社を自主退社したパイロットを相手取って起こしたもの。同パイロットは2007年8月末、原告企業と労働契約を結んだ。契約書のなかには、ある機種の操縦免許(限定変更=Type Rating=)の取得コストを会社側が負担するものの、取得の24カ月後より以前に同パイロットが自主退社した場合、あるいは即時解雇となった場合は、同パイロットが会社に全額返済する、との条項があった。

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同パイロットは当該機種の操縦免許を取得するために10月18日まで研修を受けた。研修費用は1万8,000ユーロだった。

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操縦資格を得るためには最後に、教官が同乗する当該機種を実際に操縦しなければならなかったが、その機会がいつまでも訪れなかったため、同パイロットは11月9日付の文書で、労使契約の即時解除を通告。原告はこれを受けて、研修費用1万8,000ユーロの返済を求める民事訴訟を起こした。

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1審と2審は原告敗訴を言い渡し、最終審のBAGも下級審判決を支持した。判決理由で裁判官は、一定期間内に自主退社した場合は理由の如何を問わず研修費の返済を義務づける取り決めは被用者に不利なものだと指摘。普通約款の作成使用者(ここでは原告企業)が信義義務に反して契約相手(被告パイロット)に不利な取り決めを行った場合、その取り決めは無効となるとした民法典(BGB)307条1項の規定に基づき、被告に研修費の返済義務はないと言い渡した。雇用主が研修費の返還を要求するためには、要求できるケースをあらかじめ労働契約書に明記しておかなければならない、としている。

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