電子署名に使用する電子証明書をドイツで取得するためには、認証機関に申請を行わなければならない。これは署名法(SigG)で定められたルールであり、申請の際には身元確認のため身分証明書に記された個人データも提出しなければならない。では、雇用主が被用者に電子証明書の取得を命令した場合、被用者は情報の自己決定権を理由に拒否することができるのだろうか。この問題をめぐる係争で最高裁の連邦労働裁判所(BAG)が9月25日に判決(訴訟番号:10 AZR 270/12)を下したので、ここで取り上げてみる。
\裁判はクークスハーフェン水路・航路局で入札業務を担当する職員が雇用主を相手どって起こしたもの。同局では2010年1月1日から、入札業務をもっぱらインターネットで行うようになった。雇用主はこれを受けて、同職員に電子証明書を取得するよう命令した。電子証明書は個人でないと取得できないからである。コストについては雇用主が負担することを伝えた。
\これに対し同職員は、被用者の個人情報を第三者に提供することを雇用主が命じることは情報の自己決定権に対する侵害だと主張。また、認証機関に提出したデータが濫用される恐れもあるとして、命令拒否の正当性を確認するための訴訟を起こした。
\原告は1審と2審で敗訴。最終審のBAGも下級審判決を支持した。判決理由で裁判官は、電子証明書の取得は業務遂行のうえで必要不可欠だと指摘。また、認証機関への個人データ提供に伴うプライバシーの侵害は軽微だとの判断を示した。提出したデータの濫用懸念についても、署名法の規定によりデータ保護は保証されているとして、原告の主張を退けた。
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