通勤に要した交通費は所得税の控除対象となる。これは所得税法(EStG)に定められたルールであり、控除額は通勤距離が長いほど高い。このため、通勤距離は自宅と職場を結ぶ最短ルートでなければならない。では、最短距離のルートに有料道路が含まれている場合や、勤労者が利用する通勤手段が何らかの理由で最短距離を利用できない場合もこの原則は適用されるのだろうか。この問題をめぐる係争で、税務問題の最高裁である連邦財政裁判所(BFH)が昨年9月に判決(訴訟番号:VI R 20/13)を下したので、ここで取り上げてみる。
裁判はスクーターで通勤する勤労者が税務署を相手取って起こしたもの。自宅と職場の最短距離は9キロだったが、最短ルートで通勤するためには◇有料トンネルを利用しなければならない◇同トンネルは時速60キロ以上で走行する車両しか利用できない――という問題があった。原告のスクーターの最高速度は時速60キロに達しない。
このため原告は、職場までの距離が27キロに上る別のルートで通勤。税控除の対象となる通勤距離を27キロとして申告したところ、9キロしか認められなかったため提訴した。
BFHが下した判決は原告敗訴であった。判決理由で裁判官は、税控除の対象となる通勤ルートは有料道路が含まれていても最短距離でなければならないと指摘。また、勤労者が利用できる通勤手段(原告の場合はスクーター)では最短ルートを走行できないという事情は交通費の税控除ルールで考慮されないとの判断を示した。