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2019/11/27

総合 - ドイツ経済ニュース

被用者用「口座」設置で化学労使が合意、独自の介護保険も導入へ

この記事の要約

被用者1人1人に「将来口座」という企業負担の貯蓄口座を付与したうえで、被用者が自由に使えるようにすることと、公的介護保険を補完する「追加介護保険」を企業の負担で導入することが最大の柱。

化学業界の労使は昨年9月に協定を締結した際、勤務時間を被用者のニーズに合わせて柔軟化するよう求める労組側の要求を、今年の交渉で協議し具体化していくことを取り決めた。

具体的には◇被用者が獲得する必要のある技能などを判定するためのソフトウエアを会員企業に提供する◇連邦雇用庁(BA)の協力を受けて化学・製薬業界に特化した研修・職業教育のコンサルティングサービスを行う◇今後に重要性が高まるスキルおよび必要性の低下するスキルを具体的に示す見取り図「フューチャー・スキルズ・マップ」を労使が共同作成する――予定だ。

独化学・製薬業界の労使は22日、新たな労使協定を取り決めた。被用者1人1人に「将来口座」という企業負担の口座を付与したうえで、被用者が現金や休暇などの形で自由に使えるようにすることと、公的介護保険を補完する「追加介護保険」を企業の負担で導入することが最大の柱。これらの取り決めは化学労組IG

BCEの強い要求で実現した経緯があり、ベースアップは比較的小幅に抑えられた。

化学業界の労使は昨年9月に協定を締結した際、勤務時間を被用者のニーズに合わせて柔軟化するよう求める労組側の要求を、今年の交渉で協議し具体化していくことを取り決めた。将来口座はこれを受けて労組側が考案したものだ。

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BCEは今回の労使交渉に先立って、同口座に被用者1人当たり年1,000ユーロを積み立てることを企業に義務づける要求案を打ち出した。それによると、口座には毎年、同額が払い込まれることから、被用者が使用しなければ貯蓄は増えていくことになる。この貯蓄を各被用者が金銭として直接受け取るだけでなく、◇短期・長期の有給休暇として取得する◇年金として利用する――など様々な形で自由に使えるようにする、というのが要求の概要だ。

今回の合意では◇2020年から同口座の運営を開始する◇当初は年に勤労日2日分を積み立て22年までに同5日分(ないし月給の23%)へと引き上げていく◇口座の貯蓄を具体的にどのような形で利用できるようにするかは各企業が従業員代表と協議してルールを作る――が取り決められた。同ルールは労使が取り決めた計8つの選択肢のなかから少なくとも2つを選ぶことになる。選択期限は20年9月末。

被用者が同貯蓄を有給休暇として取得できるのは、企業の業務に穴が開かない場合に限られる。また、企業は必要な規模の労働力を確保するために、労働時間の延長を個々の被用者との間で取り決めることができるようになる(任意ベース)。

ベアは2段階で計2.8%

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BCEは、家族の介護で被用者が生活難に陥ることを避けるために、追加介護保険を企業の負担で導入することも今回の交渉で要求。同保険を21年7月1日から導入するとの同意を雇用者側から取り付けた。介護負担が発生した場合、被用者は保険金を受け取ることができる。金額は施設介護で月に最大1,000ユーロ、訪問介護で同300ユーロ。企業の保険料負担は被用者1人当たり月33.65ユーロに上る。

賃金・給与は20年7月1日に1.5%、21年7月1日に1.3%がそれぞれ引き上げられる。20年6月末までについては一時金が支給される。一時金の額は地域によって月給の4~6%となる。

経営状態の思わしくない企業は21年7月に予定する賃上げの時期を最大2カ月、延期できる。景気の低迷を踏まえた措置で、上げ幅を半額にすることも可能だ。

化学・製薬業界の労使協定はこれまで、発効日と失効日が地域によって異なっていた。今回はこれを全国で統一することも取り決められたことから、新協定は一律で22年3月末に失効する。この関係で、協定の有効期間は最も短い地域で27カ月、長い地域で29カ月となる。

労使はまた、経済のデジタル化に伴う課題に従業員が対応できるようにするための措置に関しても取り決めを行った。具体的には◇被用者が獲得する必要のある技能などを判定するためのソフトウエアを会員企業に提供する◇連邦雇用庁(BA)の協力を受けて化学・製薬業界に特化した研修・職業教育のコンサルティングサービスを行う◇今後に重要性が高まるスキルおよび必要性の低下するスキルを具体的に示す見取り図「フューチャー・スキルズ・マップ」を労使が共同作成する――予定だ。

労使はさらに、高齢就労者の労働時間を短縮する現行ルールを見直すことでも合意した。少子高齢化の進展に伴い労働力の確保が今後一段と難しくなることを見据えた措置。現在はシフト勤務を行う55歳以上の被用者の労働時間が週3.5時間、そのほかの勤務を行う57歳以上の被用者の労働時間が同2.5時間、短縮される決まりとなっている。